2020年11月15日日曜日

自然観が変わりそう

                                    
 いわき総合図書館の新着図書コーナーに、齋藤雅典編著『菌根の世界――菌と植物のきってもきれない関係』(築地書館、2020年)があった=写真。さっそく借りて読み始めると、すぐこんな文章に出合った。

菌根菌(キノコなど)は「陸上植物の約八割の植物種と共生関係を結んでいる。菌と植物の共生である菌根が地球の緑を支えていると言えるだろう」

 出合い頭の衝撃だった。マツタケは松の根と共生しているマツタケ菌から発生する、ほかにも植物の根と共生している菌根菌はいっぱいある、といったことは承知していた。が、この大地を覆う植物の約8割が菌根菌と共生しているとは、その共生関係が地球の緑を支えているとは――。

自然科学の分野では、植物は植物学、キノコはキノコ学(菌類学)と切り分けられる。その成果を享受する私たちも、植物を、キノコを、共生関係を抜きにして単独で見る。しかし、それではあまりにも単純すぎる。植物と菌の共生関係をベースにした見方・考え方へと自然観をシフトする必要がある――いきなりそういわれたように感じた。

菌と植物はどう協力しあっているのか。菌が土中のリン酸や窒素を、菌根を通して宿主である植物に供給する。宿主は光合成で得られた炭素化合物を、菌根を通して菌に提供する。単純にいえば、そういうことになる。

キノコ図鑑には、植物=生産者・動物=消費者・菌類=分解者、自然界はこの生産~消費~分解の循環で成り立っている、と書かれている。確かにその通りだろう。が、植物と菌類の共生関係を中心に据えると、分解は菌類の主な機能にはちがいないが、すべてではないことがわかる。

シイタケやヒラタケは樹木を腐朽させる。森の倒木は菌類に分解されてなくなり、ほかの生きものが必要とする栄養に還元される。と同時に、植物とキノコが協力し、連携して緑を増やし、人間や動物の食料となる子実体(キノコ)を生む。なかには猛毒菌もある。要するに、分解だけでなく創造にも関与しているのだ。

夏井川渓谷にある隠居の庭に絞る。立ち枯れの木がある。ヒラタケやアラゲキクラゲが発生する。これは分解。モミの若木の根元にアカモミタケが、シダレザクラの樹下にアミガサタケが発生する。こちらは植物の根と菌の共生がもたらした創造。土の中に形成されるマメダンゴ(ツチグリ幼菌)もまた菌根菌だ。少なくともわが隠居の庭では、分解による恵みよりも創造による恵みの方が、種類も量も多い。

渓谷では早春、ツツジ科のアカヤシオ(岩つつじ)が咲く。「エリコイド(ツツジ型)菌根は、ツツジ目ツツジ科あるいはエパクリス科(オーストラリアを中心に南半球に分布)の植物にある種の子嚢(しのう)菌が共生して形成される」という文章には、ハッとさせられた。

アカヤシオもまた、菌根を通じて菌と共生しているのではないか。土壌の少ない岩場でも生きていられるのは、菌という協力者がいるからではないか――。

自然とはなにかを、植物の「種子」という目に見えるレベルではなく、菌類の「胞子」という目に見えないレベルから考え直す。キノコに引かれ、キノコの本を読み続けているうちに、だんだんそうなってきた。そしてまた、この本で一段とその思いが強くなった。

自然を成り立たせている緑の大部分が共生関係でできている。これは、ある意味で互いに「利他」を生きている、ということだろう。微生物から人間に至るまで、いのちはそういうふうにできている? 共生の視点で自然や世界を見直すのもおもしろい。そんな気持ちがふくらんできた。

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