2021年9月15日水曜日

桑の葉のてんぷら

        
    桑の葉は高血圧に効くらしいと書いたら、後輩が若い桑の葉を持って来た。翌日、車で2~3分ほどのところに引っ越してきて、カミサンと友達になった年配の女性から、電話がかかってきた。「サンマの煮付けが届いた。イカの煮付けもある」。お福分けだという。さっそく車を走らせる。

その晩、煮付けのほかにカボチャと桑の葉のてんぷらが食卓に出た=写真。カボチャも前に誰かからもらったものだ。ありがたいことに、ときどきわが家では、食卓がお福分けのおかずで満たされる。

桑の葉のてんぷらを口にしながら、子どものころの、阿武隈高地の農家の情景を思い出していた。

桑の葉を食べる蚕(かいこ)を見たことがある。昭和30年代の記憶だ。母親の実家だったか、親戚の家だったかははっきりしない。かやぶき屋根の母屋の奥の上に、2階のような、屋根裏のような広いスペースがあった。

そこに蚕棚が並んでいて、丸い蚕座に摘んできたばかりの桑の葉が敷かれ、それを蚕が音を出しながら食べていた。

夏休みのときだったかもしれない。が、養蚕は春も秋も行われた。春蚕・夏蚕・秋蚕・晩秋蚕という言葉がある。産地では春から秋まで定期的に蚕を飼っていたのだろう。

時期がくると、毎日、桑畑から枝のまま葉を収穫する作業が行われた。その桑畑がどこにあったかは、子どもには知る由もなかったが。

桑の葉のてんぷらは桑の葉茶からの連想だ。もう何十年も前のことだが、庭の柿の若葉を摘んで、干して柿茶をつくったことがある。葉もてんぷらにして食べた。穏やかな味だった。

しその葉のてんぷらのように、桑の葉もカリッと揚がった。香味はない。が、せんべいのような後味がした。それはそれでおもしろい味だ。

濃く煮つけられたサンマの味が広がったあとに、さっぱりした桑の葉のてんぷらを舌にのせる。小さくて甘みが十分ではないカボチャのてんぷらの次に、これまた味の濃いイカをほおばる。いわきならではの海幸と山幸の出合いだ。

桑の葉でも柿の葉でも、春の若葉を使う――とネットにあるが、9月の桑の葉も十分いける。庭の柿の葉はどうかと見れば、こちらは先端の葉まで厚い。やはり、柿は若葉に限るか。

夏井川渓谷の隠居の庭の土手に1本、桑の木がある。前は枝を剪定していたが、何年かほったらかしにしたら、高木になった。また前のように大人の背丈くらいにしないと桑の実は食べられない。

下の庭にもカエデにまじって桑が枝を伸ばしていた。赤と黒紫の実がいっぱい生(な)った。

食べすぎると、舌が「ぶんず色」(黒みがかった紫紺色)に染まる。すると、決まって童謡の「赤とんぼ」を思い出す。「山の畑の、桑(くわ)の実を、小籠(こかご)に、つんだは、まぼろしか。」山里の楽しみは、瞬時にサバイバルグルメができることだ。

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