2021年9月19日日曜日

河口の防潮水門

        
 太平洋が一望できる展望大浴場「流木の湯」を売り物にした宿泊施設、いわき新舞子ハイツが滑津川河口にある。フットボール場や体育館などのスポーツ施設も併設されている。

 海岸林をはさんで太平洋に面しているため、東日本大震災では屋内温水プールとともに、津波の直撃を受けた。併設のソフトボール場(現在は駐車場)は一時、震災がれき置き場になった。

 スポーツ施設はその後(2016年)、多目的グラウンドがオープンし、ハイツも含めて「いわき新舞子ヴィレッジ」として生まれ変わった。

そのハイツで先日、会合があった。会津に住む後輩と一緒に参加した。駐車場に着いたら、後輩が「まだ時間がある、海を見たい」という。確かに早く着きすぎた。

ではと、また車を走らせ、海岸道路に出て防潮堤に立つ。およそ3週間前、海岸道路を利用して小名浜へ出かけた。海を見るのはそれ以来だ。

全天鉛色、海の色も冴えない。時間はまだある。ついでに塩屋埼灯台のふもとまでドライブした。後輩は、灯台を見るのは中学生以来だという。そのころ、彼は双葉郡楢葉町に住んでいた。灯台のふもとに美空ひばりの歌碑がある。映画「喜びも悲しみも幾歳月」は記憶にあるが、「みだれ髪」は初めてだという。

会津の人間になった今は、福島県の、いわきの海を、全く意識することなく暮らしている。夏井川河口から5キロほど上流に住む私も同じだ。ふだんはハマのことを全く忘れている。

後輩に「堤防はあそこからかさ上げしたのか」と、防潮堤の下部を指されても、「いや、違う。もっと上」。あいまいに応じるしかなかった。あとで、いろいろネットで確かめた。

滑津川の河口に防潮水門が設けられている=写真。福島県いわき建設事務所の広報資料によると、県は防潮堤を1メートルかさ上げして7.2メートルにした。その高さに合わせて防潮水門が建設された。

県がつくったいわき市内の防潮水門は四つ。北から滑津川(平下高久)、弁天川(平沼ノ内)、神白川(小名浜下神白)、中田川(錦町吉原=鮫川河口右岸)で、それぞれ背後に集落や農地が広がる。四倉町の道の駅よつくら港そばにある境川水門と永崎海岸にある天神前川水門は、市が施工した。

津波警報が発令されると、消防庁のJアラートが発信され、自動で水門が閉まる――。天神前川水門見学会に参加した地元・江名中学校の校長さんが学校のホームページに書いていた。なるほど。

防潮堤はサイクリングロードも兼ねる。市は防潮堤や既存の道路などを活用して、自転車で海岸線を走れるようにルートを設定した。今年(2021年)3月下旬、「いわき七浜海道」として運用が始まった。

南の勿来の関公園から北の久之浜防災緑地まで、およそ53キロ。新舞子ハイツの玄関前に新しい平屋の建物があった。「新舞子サイクリングステーション」というそうだ。七浜海道の休憩所であり、自転車のレンタルもするらしい。

会合の帰りは防潮林を縫う海岸道路を利用した。津波をかぶった黒松が塩分の浸透圧を受けて枯れ、新たに植えられた松苗が育ちつつあることを、車中で説明する。あらためて沿岸の津波被害と復旧具合を確かめるドライブになった。

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