夏井川渓谷の隠居の庭に食菌のツチグリが現れる。食べられるのは球状の幼菌(方言・マメダンゴ)だ。まだ地中にある梅雨のころ、潮干狩りよろしくフィールドカートに座って、三本熊手で地面をガリガリやる。
今年(2021)は6月下旬に敢行した。2個しか採れなかった。不作の年か――1回でガリガリをやめた。
それから2カ月たった8月末、カメラを持って隠居の庭をウオッチングしていると、大きくなったマメダンゴが半分地表に出ていた=写真上1。コロッと露出して外皮にひびが入ったもの、外皮が裂けたものもある。
外皮が裂け切っていないところを見ると、月遅れ盆のあとに続いた戻り梅雨のような天気に刺激されて、菌糸が目覚めたか。いや、ツチグリの活動がゆっくり長く続いていたのだろう。
老菌になると、外皮は裂け、中の袋の頂点に穴が開いて、そこから胞子が飛散する。テレビの番組で見たことがあるが、ツチグリは袋に雨粒が当たるたびに、煙を吐くように胞子を飛ばす。
4年前、庭に現れて星型に外皮が割れ、中の袋から胞子を放出して役目を終えるまでを観察したことがある。それを抜粋する。最後にびっくりすることが起きた。
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【7月】2日=まとまってマメダンゴが頭を出す。その数ざっと50個。16日=白っぽい表面の色が茶黒くなる。23日=裂開を始めた個体がひとつ。
【8月】13日=全体を地上に現した個体がある。パチンコ玉大だ。24日=試しに大きいものを踏むと、「プシュッ」とかすかな音がして裂けた。
【9月】3日=表面にひびの入った個体がいくつか現れる。ひびは十字状、あるいはベンツのエンブレム似とさまざま。コロンと地上に現れた個体を二つに割ると、中がチョコレート色だった。胞子の放出まで時間の問題だ。10日=裂開が近そうな個体が増える。
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このあとの9月24日。ツチグリは皮の裂けたホオズキの実のようになっていた。ツチグリの最終形だ。4カ月に及んだ観察と撮影も終わり――。なでたいような気持ちで胞子の入っていた袋を指でチョンチョンやったら、頂点からポロリと透明な水玉がひとつ飛び出した=写真上2。
な、なんだ、これは?! 前日は雨になった。頂天の穴から雨が袋の中にしみこみ、それが外から押されたはずみで玉(ぎょく)のごとくポロリと現れ、転げ落ちた。朝の光を浴びて輝いていた。これこそが甘露か――小躍りしそうになったものだ。今もそのときの感動がよみがえる。
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