日曜日は何もなければ夏井川渓谷の隠居へ行って土いじりをする。11月28日は午前中、カミサンがいわき市暮らしの伝承郷の会議に出た。送迎の合間に渓谷へ――という手もあるが、アッシー君も年を取った。往復1時間、滞在30分のとんぼ返りはきつい。
会議が終わってから行くか――そう思っていたら、カミサンにはまた別の用事があった。「昼ご飯は(薄磯の)『サーフィン』で」。文句を言っても始まらない。渓谷の隠居ではなく、海辺のカフェへ車を走らせた。
カミサンと「サーフィン」のママさんは、パッチワークの趣味でつながっている。古裂(ぎ)れをカミサンが売っている。ママさんが買いに来る。私たちがコーヒーを飲みに行く。そうしたなかで東日本大震災が起きた。
塩屋埼灯台をはさんで、北に薄磯、南に豊間の海岸集落があった。どちらも津波で大きな被害を受けた。防波堤のすぐそばに建つカフェは波に飲まれ、店と軒を接していた自宅の1階が柱だけになった。ママさんはかろうじて難を逃れた。
内陸の常磐で一時、店を開いたものの、やはり海とともにある暮らしが忘れられなかった。3年前の秋、新しくできた薄磯の高台住宅のふもとに店を建て、地元で営業を再開した。
店内には色とりどりの小物が飾られている。気に入ったものをインテリアと飲食用具にする、ママさんのセンスと遊び心は健在だった。
「通いなので、営業時間は午前11時から夕方5時まで。定休日は月曜日と第1・3日曜日」。以来、昼食かコーヒーを飲みに、何度か通った。
去年(2020年)、新型コロナウイルスの感染問題が起きると間もなく、ママさんは店を臨時休業にした。
同年5月30日、店の近くに「いわき震災伝承みらい館」がオープンした。翌日行くと、たまたまママさんが自分の店の前にいた。間もなく営業を再開するというので、6月最後の日曜日に出かけた。私はグリルサンドを、カミサンはスパゲティを注文した。
窓際にあるテーブルがひとつ減っていた。ソーシャルディスタンス(社会的距離)を考えてそうしたのだという。
「あげたい古裂れがある」「そのうち行くね」。そんなやりとりをしたあと、またコロナ感染の波がきた。再び休業を強いられた。
伝承郷の会議のあと、カミサンが電話をした。「店はやっている」。9月に再開したそうだ。別の用事とは、ママさんに古裂れを届けることだった。今度もまた、私はグリルサンドを、カミサンはスパゲティを頼んだ。
カウンターとテーブルに透明アクリルのパーテーション(ついたて)が置いてあった。席に着いたテーブルのパーテーションには女性のイラストが描かれている。
左隅には長い髪をウエーブさせ、長いスカートをはいた若い女性が2人=写真、右上隅にはゆったりしたズボンをはいた女の子。
吹き出しを読む。「お姉さんまってェー、カフェオーレのみたいね」「カフェオーレも好きだけどウインナーコーヒーもいいね。どっちでもいいから早くして!」。右上隅の女の子は「まってェー」。
なにか楽しいことをやろう、楽しんでもらおう、というママさんのサービス精神と遊び心をまた感じた。
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