土地の人には当たり前のことでも、よそ者には驚きに近い「発見」だった。風景の奥にも自然と人間の暮らしがある――当たり前のことが、「好間のV字谷」からはイメージできなかった。
私は平に住んでいる。カミサンの実家(平・久保町)へ行くとき、あるいは夏井川渓谷の隠居へ行くために平商業高校(平・中塩)近くの田んぼ道を通るとき、「好間のV字谷」が見える。好間の小谷作と下好間の境に架かる樋口橋からだと、こんな感じだ=写真。
平の隣町なのに、好間には土地勘がない。作家吉野せいが夫とともに開墾生活に明け暮れた菊竹山のふもと、あるいはその下の好間川右岸を走る国道49号沿いの商店街など、ピンポイントで知っているにすぎない。V字谷も天然の風景画のように見ているだけだった。
谷の上流は好間・榊小屋。山に囲まれた里に、ギャラリー木もれびや有機無農薬栽培の直売所「生木葉」がある。最近、そちらへよく行くので、どこに何があるかは、これもピンポイントながら頭には入っている。
好間川の穏やかな流れも目に焼き付いている。それが、そのあと深いV字谷を刻んで好間の市街へ至ろうとは思いもよらなかった。
V字谷の奥と手前がつながったのは、若い仲間の話を聴いて、じっくり地図を読んだからだ。
いわき地域学會の第365回市民講座が12月18日、いわき市文化センターで開かれた。渡辺剛廣幹事が「地図の読み方」と題して話した。
ちょうど2年前にも同じタイトルで話をしている。今回はまず、水平に引かれた等高線を見て断面図を描く練習をした。
傾斜のきつい山と緩やかな山がある。なだらかな谷とV字谷がある。それを想像する力を養うきっかけになれば、ということなのだろう。
V字谷の実例として、好間川渓谷を取り上げた。等高線が何段も水平に伸びている。しかも間隔が狭い。つまりは傾斜がきつい、ということがよくわかった。
あとで『よしま ふるさとの歴史探訪』(好間地区関係団体会議、1998年)や『いわきの地誌』(いわき地域学會、2016年)に当たる。
で、やっと平から見るV字谷の向こうに好間・榊小屋の平坦な集落と、そこに住んでいる人、あるいは直売所へ、ギャラリーへ行く人などが、好間川とともにイメージできるようになった。
生木葉の周囲を見渡したときに、稜線がスパッと切り落とされたようになっているところがあった。生木葉の畑の東方の山、それがV字谷の始点だったことを初めて知る。
『よしま ふるさとの歴史探訪』によれば、①硬い角閃片岩が凸面をつくるこの地域が沈降し、第三紀の堆積物に覆われた②第四紀に再び隆起したとき、古好間川が生まれ、谷を刻んだ③浸食が進み、軟らかな第三紀の地層が取り除かれても、最初の流路を変えることなく基盤の硬い角閃片岩体を横断して深い横谷を刻み続けた――。
こうしてできたV字谷を「表生谷(ひょうしょうこく)」というそうだ。日本でも極めて少ない谷の一つらしい。
「好間のお宝」というより「いわきのお宝」だ。いや、県の自然環境保全地域に指定されているのだから、「福島県のお宝」でもあるか。
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