2021年12月25日土曜日

『土中環境』を読む

            
 今年(2021年)7月、熱海市の伊豆山地区で盛り土が原因の土石流が起きた。事故直後、いろんな専門家が現地を調査した。その一人が造園設計事務所代表の高田宏臣さんで、フェイスブック友が彼のコラム「地球守」を紹介していた。土中環境に視点を据えた彼の論考が刺激的だった。

自然界のできごとはすべて水と空気の循環を通じた関連のなかで生じるという。「高田仮説」では、土石流は急傾斜の谷で川底が「泥つまり」することで発生しやすくなる。

山頂部で谷への残土埋め立てと平坦造成が行われれば、水が土中に浸透しにくくなる。大雨になれば泥水が流れる。自浄作用の許容量を越えれば、泥は堆積する。つまり、「泥つまり」がおきる。この土中環境の悪化が負の連鎖を招いた、というのが高田さんの見立てだ。

図書館で彼の本を検索すると、3冊あった。『ガーデンツリーお手入れ便利帳』『これからの雑木の庭』『土中環境』。

『土中環境』は「貸出中」だった。そんなことが最近よくある。とっかかりとして『これからの雑木の庭』を読んでみた。

それからしばらくたって再度チェックしたら、「貸出中」が消えていた。急いで総合図書館へ出かけ、『土中環境――忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技』(建築資料研究社、2020年)を借りた。

 現地調査のリポートでは触れられていなかった微生物、特に菌糸や菌根菌の話が出てくる。

キノコという言葉は使っていない。が、菌根菌の代表はマツタケだ。土石流の発生メカニズムを知る前に、キノコなどの菌糸が土中の健康状態と大いに関係することを知って驚いた。

たとえば、こんな記述。「団粒土壌の空隙を保つための糊のような働きをしているのが、土中の菌糸です」「この菌糸群が、土中でのいのちの循環において決定的に大切な役割を担います。その役割とは、土壌中の生物循環の養分、水、情報の伝達といった、大地全体の生命維持に欠かせない働きです」

ところが、なんらかの原因で土が圧密されると、土中の保水性も透水性も乏しい、重たい土に変わってしまう。高田仮説による土石流への負の連鎖が始まる。

夏井川渓谷の隠居は土砂災害警戒区域に入っている。隠居のそばを道路が通っている。近くに、山側からしみだした水でいつも濡れているところがある。そこから異変が起きないかと気がかりだったが、『土中環境』を読んで安心した。

泥水ではない、澄んだ水だ。山側の土中環境が健全で安定していることを示している。その証拠にこの四半世紀、何も起きていない。

菌根菌は「陸上植物の約八割の植物種と共生関係を結んでいる。菌と植物の共生である菌根が地球の緑を支えていると言えるだろう」。

齋藤雅典編著『菌根の世界――菌と植物のきってもきれない関係』(築地書館、2020年)を読んだときにも驚いたが、『土中環境』もまたキノコが果たしている大切な役割を教えてくれる。

伊豆山の土砂災害をきっかけに、キノコと防災、キノコと土中環境を考えるようになるとは……。「文化菌類学」は奥が深くて広い。

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