2022年1月10日月曜日

『豆くう人々』

            
 この本も総合図書館の新着図書コーナーにあった。長谷川清美『豆くう人々――世界の豆探訪記』(農文協、2021年)=写真。

長谷川さんとはいわきの在来小豆「むすめきたか」を介して知り合った。私がブログに「むすめきたか」のことを書いたら、フェイスブック経由で連絡がきた。いわき昔野菜保存会の仲間の案内で、長谷川さんと三和町の生産者を訪ねた。それが平成29(2017)年3月初旬。

その3年後の令和2(2020)年2月、長谷川さんがいわき市のイベントで講師を務めたあと、わが家へ立ち寄った。

最初は『べにや長谷川商店の豆料理』(パルコ、2015年第9刷)を、2回目は『日本の豆ハンドブック』(文一総合出版、2016年)『「バーミキュラ」で豆料理』(PARUCO出版、2019年)をいただいた。

『豆くう人々』は、2012~19年までの間に、在来豆を「つくり」「育て」「食べている」人たちを探して世界66カ国を取材した記録から、約30の国・地域のエピソードを厳選してまとめたものだそうだ。

中南米12カ国、アフリカ5カ国、中東3カ国、中央アジア・欧州4カ国、東欧2カ国、それにアジアがミャンマーなど3カ国。

ミャンマーは「ビルマ豆」のルーツを求めての旅だった。ビルマ豆は長谷川さんの故郷、北海道遠軽町の近郊で今も栽培されている在来種だ。

大正14(1925)年4月、いわきから北海道へ開拓移民として渡った詩人猪狩満直も栽培した。で、真っ先にミャンマーの記事を読んだ。

結論からいうと、これがビルマ豆のルーツという確証は得られなかった。「ペトゥン」という在来豆に心が動いたものの、インゲン豆かササゲかは判然としない。長谷川さんは「今後、ペトゥンについて調べる」とメモ帳に記してミャンマーを後にした。

満直とビルマ豆の話は、満直を取り上げた吉野せいの「かなしいやつ」(『洟をたらした神』所収)に出てくる。

故郷の盟友・三野混沌(吉野義也=せいの夫)からの手紙に返事を出す。混沌は満直の手紙を大事にとっていた。

「ここ二ヶ月というものは粉骨砕身、文字通りの生活だった。殆ど時間空間の意識もないはげしい労働の中に躯(からだ)を投げ込んでいた。予定通り二町歩の開墾終了。稲黍(いなきび)、ビルマ豆(菜豆=さいとう)、ソバまいた。(略)秋の霜害がなかったらこれで飢える心配はない」

 ビルマ豆がどんな豆かは、 『べにや長谷川商店の豆料理』で知った。北海道に数多く存在する在来種の豆はほとんどがインゲンマメ系。ビルマ豆もそうだ。

「むかし小豆が不作だった年、小豆のかわりに餡(あん)の材料に使われたといいます。比較的収量もあり、ご飯といっしょに炊くビルマ豆ご飯は北海道の郷土食です」

 小豆は売り物、ビルマ豆は自家用の食べ物。病気や冷害にも強い、ということもわかった。

そのルーツ探しの旅が載る今度の本だ。「かなしいやつ」の注釈は、長谷川さんの力を借りることで、前より深く広く、そして意想外なものになった。注釈は第二の読み物――そうなるとおもしろい。

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