2022年5月26日木曜日

『クスノキの番人』

           
 一世代若い元同僚と話していて、「なるほど」と思ったことがある。好きな作家は井坂幸太郎(1971年~)や星野智幸(1965年~)だという。

 私が本を読み始めたころは大江健三郎(1935年~)や石原慎太郎(1932~2022年)だった。なんといっても「同時代の作家」という思いがあった。

 元同僚にとってもそれは同じだろう。井坂や星野は自分たちと同じ時代を生きている作家という思いがあるに違いない。それよりさらに若い世代は、やはり自分たちと年齢的に近い作家に引かれるはずだ。

 10代で20代の大江に触れた人間は30代、50代、いや70代になっても、大江が気になる。しかし、あとから登場した井坂や星野にはなかなか目が向かない。

ということを「まくら」にして、最近読んだ小説の話を。いや、正確にはその本にからむ話を――。

 カミサンが移動図書館から東野圭吾(1958年~)の小説『クスノキの番人』(実業之日本社、2020年)を借りた=写真。

 以前、星野智幸の小説『植物忌』(朝日新聞出版、2021年)が新聞の書評欄に載った。変わったタイトルに引かれて、図書館のホームページでチェックしたら、「貸出中」になっていた。「貸出中」が消えるのを待って、借りて読んだ。

 簡単にいえば、人間が植物になったり、刺青の代わりに植物を生やしたりする変身の物語だった。

『クスノキの番人』も『植物忌』と同じように、人間と自然の交流を軸にした物語ではないだろうか。そんな見立てで読んでみた。

最初は東野と星野を混同していた。途中で混同に気づいて驚いた。作者は推理作家だった、しかも私より10歳若いだけではないか。

『白夜行』というタイトルの作品も書いている。「白夜」に引かれて読んでいたかもしれないと思ったが、それは佐伯一麦の『ノルゲ』(講談社、2007年)のことだった。佐伯はノルウェーに留学した妻に同行して、同地に1年間滞在した。その体験をつづっている。

『クスノキの番人』に登場するクスノキは、直径が5メートル、高さが10メートル以上もある巨樹だ。幹の内部に空洞ができている。新月と満月の夜、中で祈念すれば願いが叶うという。

クスノキに「念」を預ける、だれかがクスノキからそれを受け取る。「預念」と「受念」の関係では、「念」以外の心のひだまで受け取る側に伝わってしまう。人間と人間の間に巨樹を媒介させ、物語として成立させたところが人気の秘密なのかもしれない。

 図書館のホームページで確認すると、市内6図書館に10冊ある同書が常に「貸出中」になっている。裏を返せば、予約が殺到しているということだ。

ディーリア・オーエンズ/友廣純訳『ザリガニの鳴くところ』(早川書房、2020年)も、本のない内郷を除く5図書館ですべて「貸出中」」になっていたときがある。「貸出中」から市民がどんな本に興味を持っているかがうかがえる。

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