2022年5月22日日曜日

動物行動学者

                               
 いわき総合図書館に『動物行動学者、モモンガに怒られる』(山と渓谷社、2022年)=写真=という新着図書があったので、借りてきた。

 著者は公立鳥取環境大学の小林朋道副学長で、副題に「身近な野生動物たちとの共存を全力で考えた!」とある。

 毎週日曜日、夏井川渓谷の隠居へ通い続けて四半世紀になる。交通事故で死んだ生き物も、生きて森を動き回る鳥獣も見てきた。住民からもたびたび興味深い話を聞いた。

 渓谷の住民は日々、自然にはたらきかけ、自然の恵みを受けながら暮らしている。ときにはしっぺ返しをくらうとしても、自然をなだめ,畏れ、敬いながら、折り合いをつけてきた。

その意味では、住民は動物行動学者以上に動物に詳しい。植物や菌類(マツタケなど)の生態にも通じている。

この四半世紀の渓谷での見聞、体験を重ねながら、『動物行動学者、モモンガに怒られる』を読んだ。

 モモンガは主にスギの葉を食べ、杉の樹皮をはいで巣の材料にするという。それで思い出した。

夏井川渓谷にはモモンガと同じげっ歯類で、モモンガよりは大きいムササビが生息する。森の中の小さな社(やしろ)の前に杉の木がある。幹の南側の樹皮がそそけだっていた。「ムササビかリスがはがしたんだ」と住民に教えられた。

夜間、車で走っていたとき、山側から谷へと滑空するムササビを見たことがある。ムササビも杉の樹皮をはいで巣の材料にするというから、食べ物も似ているか。

 タヌキたちは決まった場所に集中して糞や尿をする。「ヒトの公衆トイレと同じ」なのだとか。

去年(2021年)の冬、隠居の下の庭の隅に、この公衆トイレができた。震災前の師走、対岸の森から水力発電所の吊り橋を利用して渡って来るタヌキを目撃したことがある。人の気配が消えたところでは、昼間でも歩き回るらしい。「溜め糞」をしたグループも対岸の森からやって来たか。

ヤマカガシとヒキガエルは深い関係にあるという。ヤマカガシは自身が生産した毒のほかに、ヒキガエルが生産した毒も利用しているといわれているそうだ。

「ヤマカガシがヒキガエルを食べ、ヒキガエルの耳腺(じせん=耳の後ろにある分泌腺)や背中の分泌腺の毒を、自分の頸腺に溜めるのだ」という。

前に紹介した草野心平の詩「ヤマカガシの腹のなかから仲間に告げるゲリゲの言葉」を思い出した。「死んだら死んだで生きてゆくのだ」という1行が気に入っている。
 ゲリゲは、するとヒキガエルだったか。ヤマカガシに飲み込まれてもヒキガエルの毒はヤマカガシに受け継がれる。まさに、死んだら死んだで生きてゆくのだ――を実証するように。

文学を科学で説明しても仕方がない。が、文学と科学が交差するような場面がある。ゲリゲはそんな存在に思えてきた。

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