ときどき台所から「ピー」という音が聞こえる。冷蔵庫のドアが開いていると、「ピーピーピー」と連続して鳴る。それとは違う。
「なんだろうね」。カミサンがいう。「前から鳴ってるよ」「そう? 前からって」「ずっと前から」
茶の間のこたつを利用して“在宅ワーク”をやっている。台所までは5メートルもない。たまに「ピー」が聞こえる。台所だけではなく、茶の間、あるいは店のレジからも。
その意味では「ずっと前から」だが、今度の「ピー」は、たまに聞こえる単発の「ピー」と違って、何分かおきに繰り返し鳴る。
カミサンが気にするので、「ピー」から「ピー」までの時間を測った。およそ5分。5分ごとに「ピー」と鳴る。
「5分ごと/ピーが鳴る」で検索すると、ガス温水器や石油ストーブの電池切れ、あるいはほかの理由などで「ピー」と鳴ることがわかった。
まずはどこから、つまりはなにから「ピー」が鳴っているのか、確かめないと――。台所には冷蔵庫、温水器、電気炊飯器、ガスコンロ、石油ストーブ、レンジがある。テーブルのそばに立って音源を探る。どうもよくわからない。
冷蔵庫に意識を集中して待つと、違う方から聞こえる。では、温水器か。それに耳を近づけていると、今度は冷蔵庫の方から聞こえる。
体の向きを変え、場所を変えて音源を探ったが、どこで鳴っているかはわからずじまいだった。
カミサンが冷蔵庫を買った会社に電話で状況を説明する。知り合いでもある社長は「ガス漏れでは」といいながらも、見に来てくれることになった。
社長が来た時点で再び「ピー」の音源を探ったが、やはりよくわからない。その場でメーカーに電話で問い合わせたところ、アラーム音以外に5分おきの「ピー」は鳴らないという。冷蔵庫ではないのだ。
温水器は新しい乾電池に取り換えた。石油ストーブは電池をはずした。それでも「ピー」音が止まらない。
「やっぱり冷蔵庫か、戻って調べてみます」。社長は自分に言い聞かせるようにつぶやいて、帰った。
それからどのくらいたっただろう。「ピー」音が止まった。カミサンの話では、炊飯器の操作パネルをあれこれ触っていたら、静かになった。
そんなことがあるのだろうか。ネットで拾える、5分おきに「ピー」の事例はガスコンロだけだ。
音源を決めつけないことにした。というのも、私たちは電子的な機器に取り囲まれて暮らしているからだ。
茶の間にも電池が必要な置き時計がある。パソコンは常時、コンセントを差し込んでいる。スマホはそれこそ、しょっちゅう充電しないといけない。
機器を使うというより、機器に使われている。機器によって「ピー」音を変えることはできないものか、そんなことを思ったりする。耳鳴りの「ピー」に支配されながら。
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