夏井川渓谷の隠居に着くと、雨戸をあけて部屋の空気を入れ替える。それから庭の木を、地面を眺める。この1週間で変わったところがあるかどうかをチェックする。
植物は生きている。菌類も生きている。1週間前よりは生長し、あるいは衰える。それは当然だが、1週間前にはなかったキノコが生えたり、花が咲いたりすると心が躍る。
キノコの生(な)る木がある。樹種がわからないのが悔しいのだが、木の内部には複数のキノコの菌糸が張り巡らされているようだ。
あるときはアラゲキクラゲが、ヒラタケが、といった具合にキノコが姿を見せる。5月15日に見ると、アミヒラタケが発生していた=写真上1。
初めてアミヒラタケに気づいたのは、平成30(2018)年の師走。ヒラタケに似るが、下から見える傘裏は“ひだ”ではなく“管孔”だ。
1週間後に採取し、図鑑に当たるとアミヒラタケだった。名前にヒラタケと付いているが、ヒラタケの仲間ではない。
ヒラタケはヒラタケ科、アミヒラタケはサルノコシカケ科(あるいはタコウキン=多孔菌科)だ。
やわらかい幼菌のうちは食べられるが、すぐ硬くなる、とネットにあった。確かに、発生に気づいてから何日かたっていたが、姿は変わらない。触ると硬かった。サルノコシカケの仲間だということが実感できた。
令和2(2020)年10月には、ヒラタケとアミヒラタケが同時に生えていた。今回はまだ5月中旬だ。条件がそろえば、いつでも姿を現すのだろう。
地面ではどうか。隠居の裏、道路との境に先週まで気づかなかった花のつぼみがあった=写真上2。サイハイランだ。
前に検索してわかったのだが、サイハイランは「部分的菌従属栄養植物」らしい。そのときに書いたブログを抜粋する。
――サイハイランは緑色葉を持っているが、薄暗い林床にいるため独立栄養だけで生育は難しいと考えられていた。そこで研究が進められた結果、ナヨタケ科の菌類と菌根共生をしていることがわかった。
緑色葉を持ちながらも菌根菌に炭素を依存する「部分的菌従属栄養植物」である可能性が考えられるという(谷亀高広「菌従属栄養植物の菌根共生系の多様性」)。
ついでに、ナヨタケ科のキノコはと、手持ちの図鑑に当たったら、ヒトヨタケ科にナヨタケ属があるばかり。こちらも近年、再編成されてナヨタケ科が設けられたようだ。ヒトヨタケ、キララタケ、イヌセンボンタケなどが入る――。
サイハイランは、ある年、突然、庭のモミの木の下に出現した。いつも同じところから生えるかというと、そうでもないようだ。
今年(2022年)は隠居と道路との境に5株も現れたが、前に写真を撮ったところには影も形もなかった。
下の庭に「フキ畑」がある。カミサンが若いフキを摘んでいたら、キノコがあった。サケツバタケらしいが、よくわからない。隠居ではこうして不意に、興味をそそられるものが現れる。
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