まずはおさらい。江戸時代後期、磐城平藩・山崎村の専称寺で修行し、のちに江戸で俳諧宗匠となった出羽国生まれの人物に一具庵一具(1781~1853年)がいる。
単なる「俳人」ではない。いわき地域学會の先輩からは「俳僧」が正しいというアドバイスを受けた。その視点からあれこれ調べを進めてきた。
初代のいわき地域学會代表幹事・故里見庫男さんからは、「研究の材料に」と、古書市場で入手した掛軸や短冊をちょうだいした。
生地の山形県村山市で発刊された村川幹太郎編『俳人一具全集』(同全集刊行会、昭和41年)もいただいた。
掛軸には一具自身の筆で「梅咲(き)て海鼠腸(このわた)壺の名残哉」という俳句が書かれてある(表記は全集にならった)。
くずし字が読めず(今も読めない)、何と書いてあるのか、見当がつかなかった。元高校校長の教育長氏に写真を見せると、「梅咲(き)て――」と読むことがわかった。あとは全集と照合して句を確定する。私の場合はそんなやり方が多い。
そこから句意を考える。春を告げる梅が咲いた、壺に入っていた「このわた」も減ってこれが最後か、名残惜しいなぁ――そんな感じだろうか。
「このわた」はナマコの腸を材料にした塩辛で、江戸時代から「天下の珍味」として知られる。あるとき、すし屋でこれを初めて口にした。こりこりした舌触りが好ましかった。磯の香りもした。なるほど「天下の珍味」だわい、と思った。
いわき市内の某家を訪ね、一曲六隻(いっきょくろくせき)の一具屏風を拝観し、一つ一つを写真に収めた。
久しぶりに『一具全集』を手に取った。一具が生涯に詠んだ5360余句が収録されている。もとより個人の家などに収蔵されている短冊、軸物などの中には未収録の作品もある。
一具屏風も6句のうち3句は全集未収録作品だ。まずは、いわき地域学會の仲間による翻刻を紹介する。
右から順に、①若水や庵の屋根へも一柄杓②蒔(まひ)た日のおもいひ出せぬやけしの華=写真上1③梅桜よい夢見たりころも替(がえ)=写真上2④藪陰に汁のにへ立(たつ)田打(たうち)哉(かな)=写真下⑤一ひらの雲のかげらふ花野哉⑥浅はかな物にしあれど雪囲ひ――と続く。
くずし字をすらすら読めるわけではないという。読めない字はくずし字アプリを利用し、全集収録句はそれを参考にした。すると、②③④は全集未収録句だった。
とりあえず、現代人も読めるように文字化されたので、あとは読み解き、評価するのが課題だが、それには時間がかかる。まずは句意を考える過程を楽しむとしよう。
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