小名浜で集まりがあるというので、夕方、カミサンを送っていった。目的地へ近づくと、茶色っぽい煙がわいて横に流れていく。車列の先では赤色灯が点滅している。火事だな――異常な煙の動きにそう思った。
たちまち車が渋滞する。左前方の交差点からポンプ車がサイレンを鳴らしながら現れた。119番通報があって間もない時間のようだった。
家を出たのが午後5時20分ごろ。幹線道路が混雑する時間帯と重なった。前はバイパスだった国道6号を利用すれば最短距離で行けるが、渋滞に巻き込まれる恐れがある。
ここは車の少ない海岸道路を行こう――。といっても、混雑回避だけが海岸道路を選んだ理由ではない。
いわきの沿岸域も津波で大きな被害を受けた。その復旧・復興の過程で被災地は様変わりした。なかでも薄磯、豊間は、どこか知らない土地に来たような印象を受ける。
ときどき海岸道路を通っては今の風景を目に焼きつける。別のことばでいえば、記憶のアップデート(最新化)だ。東日本大震災後、身に付いた習慣でもある。
地震と津波のあと、内陸部の夏井川水系が台風被害に見舞われた。その対策として河川敷では堆積土砂の撤去と立木伐採が進められている。沿岸部も、河川敷も変貌しつつある。
今度も六十枚橋から下流、夏井川の堤防を利用して河口まで下り、永崎まで海を感じながら進み、小名浜に入ってからは一本中に入って目的地まで直進した。
いわき市小名浜支所の前を過ぎたところで、煙と赤色灯が目に入った。しかも、煙は目的地の方から出ている。まさか、目的地が火事? それはないだろうが、そう思わせるほど同じところから煙が出ている。
ポンプ車が現れた交差点を左折し、時計回りに進んで目的地の近くまで行くと、駐車場をはさんだ隣の家から煙が上がっていた。道路にはポンプ車とパトカーが10台近く並んでいて、駐車場には車を入れられない。
茶色い煙は間もなく白煙に変わった。が、きな臭いにおいがあたりに漂っていた。農村地帯では春先に野焼きが行われる。それ以来の人工的なきな臭さだ。歩道には火事に気付いた人々があふれていた。
およそ2時間後、カミサンが仲間に送られて帰ってきた。予定通り集まりは開かれたという。きな臭い空気を吸いながらの会議になったようだ。
翌日(6月11日)の新聞に小さく記事が載った。出火時間は午後5時40分ごろ、民家敷地内のプレハブ小屋から火を出した、原因は調査中――記事はそれで終わっていた。しかし、この目で見た火事だったこともあって、「なぜ、そこから火が」の思いが今も消えない。
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