夏井川渓谷にある隠居の庭に「キノコの生(な)る木」がある。発生するのはヒラタケ、アラゲキクラゲ、アミヒラタケの3種。いわゆる木材腐朽菌だ。
「この~木なんの木 気になる木……」。某企業のコマーシャルソングではないが、木の名前がわからない。ずっとモヤモヤしたままでいる。
腐朽菌には冒されているものの、いのちが尽きたわけではない。春になると芽が吹いて花をつける=写真上1。
この花から、毎年、なんという木なのか、ネットで検索するのだが、どうしてもわからない。クワの仲間らしい――いつもそこで終わる。
クワなら「クワの実」が生るのでわかる。庭の土手に1本、クワの木がある。前は枝を剪定していたが、何年かほったらかしにしたら、高木になった。また前のように大人の背丈くらいにすればクワの実を食べられるはずだ。
下の庭にもカエデにまじってクワが枝を伸ばしていた。赤と黒紫の実がいっぱい生った。食べすぎると、舌が「ぶんず色」(黒みがかった紫紺色)に染まる。
こんなときには、決まって童謡の「赤とんぼ」を思い出す。「山の畑の、桑(くわ)の実を、小籠(こかご)に、つんだは、まぼろしか。」。山里の楽しみは、瞬時にサバイバルグルメができることだ。
この「キノコの生る木」から「クワの実」を採って食べたことはない。ということは、実が生らないのだろう。それで、クワの仲間ではないのかと思いながらも、開花時にはやはりクワの木を思い浮かべる。
今年(2022年)は花だけでなく、葉もよく見た。楕円形のものもあれば、深く切れ込みの入ったものもある=写真上2。花や葉の形状からすると、やはりクワの仲間には違いない。
クワの仲間にはヤマグワ、マグワ、ヒメコウゾ、カジノキなどがある。ヒメコウゾは雌雄同株だが、ほかの3種は雌雄異株、つまり雄木(おぎ)と雌木(めぎ)がある。
雄木は実が生らないという。とすれば、隠居の庭にあるのはヒメコウゾ以外の雄木だろうか。
ネットで情報を探るほどに、カジノキか、いやヤマグワかもと、判断が揺れる。ヤマグワは北海道から九州まで広く日本に自生する。カジノキは、日本では中部以西に分布する。ともに、古くから和紙の原料として栽培されてきた。
ヤマグワならわかる。しかし、カジノキの線も消せない。その場合は栽培種ということになるが、なぜそこにあるのかが説明できない。幹もそう太くない。
「実の生る木」なら、実の色や形から種を特定することもできる。それができないので、「キノコの生る木」として調べるのだが、アラゲキクラゲやヒラタケはいろんな木に生える。特定は難しい。というわけで、今年もまた「気になる木」で終わってしまうのかもしれない。
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