夏井川渓谷を縫う県道小野四倉線沿いに、ヤマユリが点々と生えている。自分のメモ(ブログ)を見ると、最も早く咲いたのは7月8日(2018年)で、直近の猛暑続きが開花を早めたようだ。
この四半世紀の“定線観測”では、おおむね7月12日前後に開花を確認している。同じ阿武隈高地でも標高の高い田村市の山里では、ヤマユリの開花がちょっと遅れる。夏休みの始まりとほぼ一緒だ。
青空と入道雲に雑木林の道端に咲くヤマユリの花と香りを重ねると、梅雨が明けて真夏がきた、というイメージが広がる。
子どもにとっては、ヤマユリは「夏休みを告げるうれしい花」だ。いや、大人にとっても最初の開花には、その芳香には心が躍る。
今年(2022年)は平年どおりだったろうか。7月10日の日曜日はまだ緑の蕾だったが、なかに白く大きくなって、今にも開花しそうなのがあった。間違いなく翌11日には咲いている――。
当然、次の日曜日は、渓谷は「ヤマユリ街道」になっているだろう。それを楽しみに、7月17日の日曜日早朝、夏井川渓谷の隠居へ出かけた。思った通り、ヤマユリは満開だった。が……。
平地の平・鎌田では、切り通しのヤマユリが白い花を咲かせていた。「これは幸先がいいな」。小川・高崎の崖に生えているヤマユリも花を咲かせていた。「いよいよ楽しみだな」
地獄坂(十石坂)を越えて渓谷に入ると、ロックシェッドの先、崖の中腹に、垂れるようにして白い花が咲いている。
ということは、その先、江田から椚平を過ぎて牛小川に至るまで、道端には白い花が咲いて、「ヤマユリ街道」になっているはず――さらに期待が高まる。
タイミングよく沿道の草刈りも行われた。7月10日の日曜日には、草が乱雑に生えていたから、この週末にでも作業が行われたのだろう。
渓谷の県道では毎年この時期、草刈りが行われる。ヤマユリは切られることなく残される。作業員のゆかしい心を想像してこちらもふんわりした気持ちになる。
しかし、今年は違っていた。ヤマユリもただの雑草に見えたらしい。ヤマユリ街道には白い花の姿がなかった。
いや、あるにはあるのだが、刈られた草にまぎれていたり、倒れたりしながら咲いている。隠居からの帰り、何回も車を止めながら、刈られたヤマユリを回収した。その1本がこれ=写真。ヤマユリを残すゆかしい心はどこへ行ってしまったんだろう。
回収したヤマユリは、供養の意味も込めて家の中に飾り、今年初めての芳香を楽しんだ。
7月中旬にはヤマユリが咲く――それが刈られて消えたとなれば、夏井川渓谷の夏の魅力も失われたと同じではないか。
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