総合図書館の新着図書コーナーに、珍しいテーマの本があった。何敬堯(か・けいぎょう)/甄易言(しん・いげん)訳『図説 台湾の妖怪伝説』(原書房、2022年)=写真上1。台湾の妖怪とはおもしろい。
著者は1985年生まれの37歳。小説家にして妖怪研究家だという。序文で日本の妖怪と台湾のそれの違いを論じている。
「妖怪」という言葉自体、日本人が口にするようになって100年ちょっと、つまり明治以降のこと。
それを前提に、日台の妖怪を比較・検討して、こう述べる。台湾の妖異文化は4類型に分けられる。すなわち、①妖②鬼③神④怪――。それらの略称として、①と④を合体させた「妖怪」を使っている。その意味では、日本の妖怪とは異なる。
「妖・鬼・神・怪」の違いは、ここでは省略する。いずれにしても、日本の『遠野物語』などをモデルにしながら、妖怪のための「旅行」と「研究」の助けになるものとして、この本を書いた。
その意味では、日本の妖怪の延長で台湾の妖怪を見てもピンとこない。ところが一つだけ、強くひかれたものがある。
日本の台湾統治時代、日本人研究者らが刊行した民間伝説の著作物からピックアップした絵がある=写真上2。版画家料治熊太(1899~1982年)が雑誌「版芸術」に描いた玩具の「吐舌鬼」だという。
目をむいて、舌を出した鬼。どこかで見たような……。もやもやした思いを抱きながら、昼下がり、BSプレミアムでクリント・イーストウッド監督の映画「インビクタス 負けざる者たち」(2009年)を見た。
長い投獄を経て、マンデラが南アフリカ初の黒人大統領になる。クビを覚悟した官僚たちは大統領の意向に沿って仕事を続ける。ラグビーの代表チームも黒人は1人だけで、圧倒的多数の黒人からは人気がなかった。
マンデラは、このチームこそ南アの白人と黒人の和解と団結の象徴になると考える。大統領の思いを知ってチームが動く。
1995年、南アでラグビーのワールドカップが開かれる。南アチームは決勝でニュージーランドを破り優勝する。南アでは白人、黒人関係なく勝利を喜び合った、という筋立てだ。
ニュージーランドの代表チーム、オールブラックスが試合前、マオリ族由来の「ハカ」を踊るシーンがあった。それを見て、もやもやが晴れた。これだ! 台湾の「吐舌鬼」とハカの踊りで目をむき、舌を出すしぐさが同じではないか。
ネットで検索すると、両者を結びつける論考が目に留まった。大形徹「張目吐舌考:霊魂との関連から」(大阪府立大学紀要、1994年)で、中国を中心とした悪魔払いの所作を取り上げている。そのなかでハカについても言及していた。
日本の「あかんべぇ」、これもハカ、そして吐舌鬼と根っこは同じ悪魔払いの所作の名残だろう、という。なるほど、ハカも、吐舌鬼も懐かしく感じるはずだ。
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