「昭和の家」なので、夏は窓と戸を開け放しておく。まだ家が立て込んでいなかった40年ほど前は、海風が夏井川に沿ってわが家まで届いた。
夏井川の堤防から国道6号をはさんで旧道までは、主に畑が続いていた。畑は今、ほんの少ししか見られない。
涼風は途絶えたが、窓と戸を開け放つ習慣は変わらない。庭からいろんな虫が飛び込んでくるのも、いつもののことだ。
このごろは、尾っぽの先端に白い毛束をつけた虫がちょくちょく現れる=写真。検索すると、シオヤアブの雄だった。
アブは清流の生きもの、という先入観がある。こんな平地にもいるのか(シオヤアブの幼虫は土中暮らし)と、最初は驚いた。
自分のブログで確かめたら、12年前の2010年8月2日付で、夏井川渓谷の隠居でシオヤアブの雌に出合っている。そのときの様子を整理して再掲する。
――8月1日早朝、夏井川渓谷の隠居へ出かけた。1週間ぶりにキュウリを収穫し、三春ネギを間引いたあと、うねの草引きをした。たちまち玉の汗が出た。水を飲み、スポーツ飲料を飲んでは室内で休み、また菜園に戻って草引きをする。〈熱中するな、熱中するな〉と呪文を唱えながら。
そんな作業の合間、扇風機を「強」にして室内で涼んでいると、アブが何かをかかえて目前を横切り、障子に止まった。ニホンミツバチらしいものを押さえつけている。図鑑を見ると、吸血アブではない。体液を吸う肉食アブだ。ムシヒキアブと総称される仲間の一種らしい。
ニホンミツバチが飛んでいたところを急襲した。あごで背中をがっちり押さえつけ、すぐ近くの隠居の中に運び込んで羽を休めた。さあ、これからゆっくり食事をしてやるわい、といったところか。
ほぼ1時間半後、アブの有無を確かめたら、廊下をはさんで障子とは反対側のガラス窓にいた。ニホンミツバチをポイと捨ててすぐ外へ飛び去った。
ミツバチは1センチ強。5倍のルーペで細部をみると、背中に針に刺された跡らしいものがあった。腹部を太陽の方に向けると空洞になっていた。
ミツバチは、腹は空洞なのだろうか。そんなことはあるまい。アブが体液を吸い尽くしたために空洞になったのだろう。ものすごいハンターが渓谷にいたものだ――。
このときの写真を見ると、尾の先端には白い毛束がついていない。雌のシオヤアブだとわかる。
すっかり忘れていたが、アブには吸血アブのほかに肉食アブがいる。肉食性といっても、体をムシャムシャ食べつくすというものではない。口吻(こうふん)を差し込んで体液を吸う。それが平地のわが家にも現れた、というわけだ。
幼虫も肉食だという。草むしりをすると、土にまぎれてコガネムシの幼虫が転がり出ることがある。これが好物らしい。で、シオヤアブは益虫扱いされている。
その幼虫も、わが家の庭にいるということか。だとしたら、人間の想像を越えた命の営みがこの小さな庭でも行われている。庭はやっぱり、ワンダーランド。
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