6月29日付の拙ブログであらまし次のようなことを書いた。――読書推進運動協議会が発行する「読書推進運動」6月号に、岩手大准教授の松下隆志さんが「今こそロシアの文学を」と題して書いた。
ロシアには「西欧に対する強い憧れと反発」がある。それは「『西欧派』と「『スラブ派』の対立」となって現れたが、「私たちはドストエフスキーやツルゲーネフらの古典を通してそうした対立を単なる知識を越えた生身の人間の葛藤として感じ取る」ことができる。
「生身の人間の葛藤」とは、ミクロの視点でロシアの人々の心に触れることだろう。ロシアの人間の内面を理解するにはロシアの文学を読むのが一番、ということだ。
その一例として、松下さんは現代作家ウラジーミル・ソローキンの近未来小説『親衛隊士の日』(河出書房新社、2013年=松下さん訳)を挙げる=写真。
2006年に書かれた作品で、「独裁者による恐怖政治、西側世界との断絶、天然資源による脅し、中国への経済的依存など、その予言的な内容にあらためて注目が集まって」いるという――。
図書館にリクエストしたら、後日、連絡がきた。さっそく借りて読み始める。2028年のロシアの物語だ。本文でそれを確かめたわけではない。本の帯と訳者あとがきに、そうある。
2028年のロシアは、階級制が設けられ、人々は貴族や平民に分類されている。16~17世紀に存在した「庁(プリカース)」=官庁や、帝政期の地方自治機関も復活した。要するに、絶対的な権力を持つ専制君主が支配する封建的な世界に逆戻りしたわけだ。
商店には国産の商品が並び、売られている本はロシアや君主をたたえる愛国的なものばかり。ヨーロッパからロシアを隔てる巨大な「大壁」もできた。
歴史上の「オプリーチニク」は、イワン雷帝が絶対的な支配地域に任命した直属の親衛隊士のことだが、ツァーリ(皇帝)がこれを導入した意図は国家や君主に敵対する貴族の根絶にある、のだとか。
小説では、オプリーチニクが行う容赦ない破壊と死、略奪と暴行、あるいはキテレツな彼らの日常などが描かれる。
そのなかに、たとえば「極東パイプラインは結局日本人から嘆願状が届くまで閉鎖される見通し」「中国人がクラスノヤルスクとノヴォシビルスクに移住を拡大」といったニュースが挿入される。
「おい、どうして陛下が第三パイプラインをお閉めになったか聞いたか? ヨーロッパのうんこ垂れどもがまた<シャトー・ラフィット>を宮殿に納入しなかったんだ。年に貨物半分の取り決めなのに、集められなかったんだとよ!」
シャトー・ラフィットとは、有名なボルドーワインのことらしい。天然ガスの見返りの一部が宮殿用のワインとは……。それも専制国家ならではの「取り決め」か。
大帝が君臨する国家は、敵対者にも国民にも「有無をいわせない」姿勢で一貫している。ロシアがウクライナで行っている破壊の苛烈さとプロパガンダを思わずにはいられない。
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