溝の入った表面は焦げ茶の焼き色が付いていて、少々固い。中はふわふわしてやわらかい。以来、ときどきカミサンが買ってくる。
たまたま若い知り合いが小学生になったばかりの息子を連れてやって来た。カミサンがこの焼き菓子を出すと、小学生がつぶやいた。「カヌレ」「おお、知ってるんだ」
年寄りがちゃんと名前を覚えきれない焼き菓子を、10歳にも満たない年齢で理解しているとは! 驚き、感心し、どんなおやつを食べているのか、興味がわいた。
それから半年余りたつ。わが家でも、カヌレは見慣れた洋菓子になった。先日、県紙が毎週発行している情報紙に、調理技術専門学校の先生がカヌレのことを書いていた。カヌレの歴史や特徴がよくわかった。
ウィキペディアなども加味していうと、フランスはボルドーの女子修道院でつくられたのが始まりらしい。「カヌレ・ボルドー」が正式な名前で、「カヌレ」は「溝のついた」という意味だとか。
面白いのは、焼き菓子が生まれるまでの経緯だ。ボルドー地方はワインの名産地でもある。ワインの澱(おり)を取り除くために卵白が使用される。すると、卵黄が大量に余る。この卵黄を利用してカヌレが考案された、という。
材料は、卵黄のほかに牛乳、バニラ、ラム酒、全卵、砂糖、小麦粉で、焼き上げることで「表面は黒く濃い焼き色が付き硬く香ばしいが、中はモチっとして柔らかくシットリとした食感」になる。
ボルドー、そしてワインから浮かび上がってきた古い記憶がある。18歳のとき、フィリップ・ソレルス(1936年~)というフランスの若者が書いた「奇妙な孤独」という小説にのめり込んだ。その中にボルドーが、ワインが登場する。
「僕」と年上の「彼女」の恋愛をテーマにした作品で、その後、ソレルスをきっかけに、ヌーヴォー・ロマンといわれるフランス現代文学の世界をさまよった。
ついでにいうと、カヌレの小学生は、そのとき「ゴジラ」の図鑑を手にしていた。それを借りてパラパラやると、ちょうどいわき市立美術館で開催中だったニューアートシーン・イン・いわき「西成田洋子 記憶の森」展の作品を連想させる怪獣がいた。
「これだ、これに似たのが、今、美術館にいるよ」。親子は、帰りに美術館へ寄って作品を見た。小学生はゴジラの延長で西成田作品を興味深く見ていたと、あとで連絡がきた。
きょう(7月6日)は久しぶりの雨。朝からカヌレを食べる人もいるだろう。日本では1990年代にブームになり、最近では定番になりつつある焼き菓子だというから。
0 件のコメント:
コメントを投稿