もう1カ月ほど前になる。晩酌をやりながらBSプレミアムを見ていたら、兵庫県の大カツラが出てきた。
細い幹が林立する、あの独特の形態は「ひこばえ」だという。そうだったのか! やっと(というより全くの無知だったのだが)、カツラの巨樹の成り立ちがわかった。
個人的には国の天然記念物に指定されてもおかしくないと思っている大カツラが、夏井川渓谷の上流、JR磐越東線川前駅近くにある。
初めてその存在を知ったのは平成20(2008)年4月。いわき地域情報総合サイト「いわきあいあい」でいわき市川前支所が「川前のカツラの花が満開」であることをPRしていた。
それによると、カツラは同支所から約100メートル上流の夏井川右岸にあり、十数本が密生しているように見えるが、根元は一つ。雌雄異株で、雄株。花が終わると新緑が美しいという。
渓谷の隠居へ行ったついでに、川前へ足を運んだ。川前駅へ通じる橋の上から上流を見やると、それらしい巨樹があった。が、雨が降っている。その日は橋から眺めるだけで終わった。
2週間後、「夏井の千本桜」を見に行った帰りに、今度は左岸・県道側からじっくり観察した。カツラは確かに幹が十数本並び立っていて、鮮やかな新緑に包まれていた=写真。
いわき市内には、田人町旅人字和再松木平に市保存樹木のカツラがある。高さは11.7メートル、幹回りが3.5メートルだが、写真で見る限り、ひこばえは数本しかない。
「川前のカツラ」はたぶん、これより大きい。が、市の天然記念物にも、保存樹木にも指定されていない。いわば無印、知られざる巨樹だ。
福島県内ではどうか。郡山市湖南町に国指定天然記念物の「赤津のカツラ」がある。こちらは高さが25メートル、幹回りが9メートル超だという。「川前のカツラ」は「田人のカツラ」をしのいで、「赤津のカツラ」といい勝負ではないか――データからそう感じた。
令和元(2019)年6月、偶然、「赤津のカツラ」を見ることができた。猪苗代湖周辺の観光を兼ねたミニ同級会が同月9~10日に開かれた。
初日は郡山市湖南町の「郡山布引風の高原」を訪ねた。標高は1000メートルほど。大根と風力発電で知られる山上の平原だ。高原に近づくにつれて道はつづら折りになる。と、標高900メートルほどの沢沿いに「赤津のカツラ」の標識が立っていた。
帰りに、じっくり巨樹を見た。案内板が標識のそばに立っている。「幹は地上1.2メートルの辺りから大小数十本に枝分かれしています」。川前の方は「十数本」だが、見た感じではそう負けていない。「赤津のカツラ」が横綱なら「川前のカツラ」は大関といってもいい――そんな印象を受けた。
さて、カツラの特徴は林立するひこばえである。この木は寿命が長いそうだ。大きく育った主幹が折れると、根元から曽孫(ひこ)のような若芽がたくさん生えてくる。幹が輪になって踊っているように見えるのはそのためだった。
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