夏井川渓谷の隠居へ行くと、向き合う相手が人間から虫に変わる。家の、小集落の周りは、夏場は緑一色だ。
1年を通してタヌキやテン、ハクビシンといった動物が現れる。イノシシも来る。鳥はもちろんすんでいる。それ以上に、絶えず人間のそばに虫がいる。
アブや蚊には蚊取り線香がある。遠ざければいい。庭の木の青葉や草を食害する虫たちは、これは成り行きにまかせるしかない。
しかし、野菜となると話は別だ。けっこう「利害」がぶつかる。もちろん、虫だけではない。イノシシが庭をラッセルする。ハクビシン、ないしタヌキが埋めた生ごみをほじくり返す。とはいえ、イノシシたちがネギを食い散らかしたりしたことはない。
隠居の庭のはじっこで昔野菜の「三春ネギ」を栽培している。今は、栽培している野菜はそれだけ。今年(2022年)はおよそ250本がうねに並ぶ=写真。
この写真は8月の月遅れ盆の前、後輩が上下の庭の草をきれいに刈り払ってくれた後に撮った。
それから1カ月余り。庭は草が伸びて、虫が隠れすむにはいい環境になってきた。いや、その前から虫たちにとっては「王国」だ。
三春ネギは秋まき。9月中にネギの苗床をつくり、10月10日前後に種をまく。芽を出したネギ苗はかじかみながらも冬の寒さに耐え、春を迎える。
さあ、これからぐんぐん大きくなるぞ、と思った4月半ば。地際部分からネギ苗が切れて散乱し、苗床がスカスカになっていたことがある。
それだけではない。ネギ苗には毎年、3~5ミリほどの黒い虫が巻きつく。この虫は次から次に現れる。そのつど取り除く。気づいてからほぼ1カ月半、プチッとやった数が100匹や200匹ではきかない、そんなときもあった。
ネギ苗を定植したあとも受難は続く。ネギ苗が根元から切られて倒れていることがある。根元の土を指でほぐすと、体長2~3センチの「根切り虫」が丸まって出てくる。この被害もばかにならない。3分の1以上をやられた年もある。
根切り虫の正体は、カブラヤガの幼虫らしい。初齢虫は夜昼なく活動して葉を食害する。大きくなると昼間は土中にひそんで、夜、ネギの根元を食いちぎる――と図鑑にあった。
今年(2022年)は根切り虫の被害が少なかった。歩留まり率はよさそうだと、喜んだのだが……。なぜか小さなカタツムリが葉に取り付いている。
ネットで検索すると、ウスカワマイマイ、ないしは外来種のオナジマイマイらしいことがわかった。これもネギにとっては加害者になる。プチッとやるしかない。
さて、栽培サイクルでいえば、そろそろ三春ネギの種まきの準備をしないといけない。先の日曜日に、畳1枚分くらいのスペースを苗床に決めてスコップを入れた。草を取り払い、土をほぐして石灰をまいた。あとは肥料をすき込み、10月9日の日曜日に種をまけばいい。
渓谷では、雨にも、風にも負けず――だけでは足りない。イノシシにも、カタツムリにも、根切り虫にも負けず――でないと、暮らしてはいけない。
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