2022年9月3日土曜日

北イタリアの山岳地方

イタリアに住むカミサンの同級生の手紙が出てきた。東日本大震災から1年半後、「2012年9月2日」の日付がある。ちょうど10年前だ。

北イタリアのヴェローナ市内から25キロほど離れた標高700メートルの山の家に引っ越した。

放牧業が盛んなところで、森林を切り開いた草原が広がっている。草原に放し飼いにされている馬の写真が添えられていた=写真上1。

野生動物(ノウサギ、キツネ、シカなど)もよく道路を横切るらしい。朝早く起きて、小さな菜園で土いじりをしながら、草原の広がる風景を眺めている、とあった。

ここ2年ほどの間に、北イタリア山岳地方の自然と人間をテーマにした本を何冊か読んだ。きっかけは、本を紹介する本の中でパオロ・コニェッテイ/関口英子訳『帰れない山』(新潮社、2018年)を知ったことだ。

30歳で仕事にも恋愛にも行き詰まり、スイスとフランスに近い標高1900メートルのアルプス山麓の山小屋にこもる。やがて、周りの自然と山岳民の暮らしに癒され、再びペンを執るようになる――

コニェッテイ(1978年~)は現代イタリアの作家で、『帰れない山』で世界的に知られるようになった。現在は生まれ故郷のミラノと、小説の舞台になったアルプス山麓との2拠点生活を続けている。

この小説の「舞台裏」がわかるノンフィクションが同じ訳者の手で邦訳された。『フォンターネ 山小屋の生活』(新潮社、2022年)。これは新刊なので図書館にはない。買って読んだ。

同書のなかで、コニェッテイは同じイタリアの作家、リゴーニ・ステルン(1921~2008年)の作品をたびたび取り上げている。

ネイチャーライティングの分野では大先輩だ。まずはリゴーニを知らねば――。図書館から志村啓子訳の『野生の樹木園』(みすず書房、2007年)と『雷鳥の森』(同、2005年)、そして第一作の大久保昭男訳『雪の中の軍曹』(草思社、1994年)=写真上2=を借りて読んだ。

第二次世界大戦時、ナチス・ドイツは宣戦布告もなくソヴィエト領内に侵攻する。最初はドイツ側が優勢だったが、1941年秋~翌年1月のスターリングラードでの攻防戦で大敗する。

ドイツ軍の副次的同盟軍イタリア軍部隊も凄惨な敗走を余儀なくされた。『雪の中の軍曹』は、その敗走体験記録だ(訳者あとがき)。

1989年の最新版に、リゴーニは高校生向けに「まえがき」を付した。それが邦訳の「訳者あとがき」のなかで紹介されている。

「自分が見、体験したことを、いつまでも覚えていることができるように、書きとめておくこと。(略)戦略、戦術、戦争の科学のことなどは抜きにして、人間の条件についてだけ語る。それがすべてだった」

このことは、今のウクライナの国民、あるいはロシア軍の兵士にも言える。深く傷つき、あるいは何のために戦ったのかという問いが、やがて膨大な記録をもたらす(のではないか)。

  リゴーニの住まいは、同級生の山の家からさらに北東の奥、標高1000メートルのアルプス山麓にあった。彼は農耕生活を送りながら、戦争体験を基に、小説を、エッセーを書き続けた。 

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