陶芸家の友人の家は川内村下川内の木戸川沿いにある。夏井川渓谷の隠居から“スーパー林道”(広域基幹林道上高部線)を経由し、下川内へ抜ける道を利用すると、およそ40分で着く。
夫婦で陶芸を生業にしていた。「土志工房」という。夫君は2年半前に他界した。自宅の隣には、いわきから移築した古民家がある。こちらは「秋風舎」と名付けられた。ここでときどき、邦楽のコンサートが開かれた。
夫君とは、同年齢ということもあって話が合った。それだけではない。彼は本業のほかに、木工にも情熱を注いだ。絵も描いた。
もう四半世紀前になる。彼のつくるテーブルといすのセットが気に入って、渓谷の隠居の庭に一式を据えた。
丸太の脚に角材を渡し、その上に板材3枚を並べたのがテーブル。いすは丸太を半分に割った長いすで、4カ所に穴をあけて脚をはめた。
十数年たってテーブルの脚が傷んだため、震災の翌年(2012年)、彼に頼んで脚だけ新調した。
木工の冴えに瞠目したのは平成27(2015)年5月、上川内にある志賀林業のログハウスで「ちゃわん屋の木工展」を開いたときだ。
案内状にこんなことが書かれていた。川内村は木材に恵まれた土地だが、まきストーブやまき窯に使うだけではもったいない。テーブルやイスができないものかと、折に触れて試作してきた。材料はほとんど同林業から譲り受けた。
木工展には完成度の高い作品が並んだ。室内用のテーブルからベンチ、イス、郵便受け、大きな箸箱と箸まである。その多彩さに舌を巻いた。
同じ陶芸の道に進んだ娘さんが、古民家をカフェに改装した。先日、プレオープンをしたので、開店時間に合わせて隠居から出かけた。
娘さんは「かわうち草野心平記念館」の管理人もしている。同館は詩人草野心平が夏・秋を過ごした「天山文庫」と、その下にある阿武隈民芸館をまとめて管理する組織だ。
この日は非番だったが、別の管理人が急用で休んだため、臨時に館へ行き、あとで友人が娘さんの代わりを務めた。
開店前に行くと、先行する一団がいた。NHKの取材クルーだった。「小さな旅」の収録だという。
古民家カフェ秋風舎のプレオープンに合わせて取材に入って3日目だった。旅の案内人(アナウンサー)がいないところを見ると、「東北小さな旅」かもしれない。
やがて娘さんが車で戻ってきたので、店の入り口から声をかける。「おうい」。カウンターから「おわっ」と大きな返事が返ってきた。庭に出てきたところをパチリとやる=写真。
秋風舎はコンサートのときに入って以来だ。土間と囲炉裏のある居間には、父親がつくったテーブルといすが配されている。
居間に上がって、彼のつくったいすに座り、彼のつくったテーブルで盛り合わせのカレーを食べていると、静かに胸を満たすものがあった。
ここでは彼も生きている。カフェは父親の協力があってこそ生まれた。そのへんに彼がにこにこしながら立っているかもしれない――そんな気がしてならなかった。
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