2022年10月9日日曜日

『戦争とデザイン』

                                 
 ロシア軍の戦車や装甲車のボディに書かれた「Z」にはどんな意味があるのか、何からきているのか――。

 グラフィックデザイナーの松田行正さんが『戦争とデザイン』(左右社、2022年)=写真=のなかで言及している。

松田さんは自称「デザインの歴史探偵」だ。そもそもこの本は、出版社側が「Z」の意味を知りたくて、著者に提案して刊行された。

 黒とオレンジ色を使った「ゲオルギーのリボン」というものがある。「もともとは帝政ロシア時代からの軍隊の帽章や、勲功のあった軍人に贈る勲章のリボン(アウェアネス・リボン)などに使われた色で、ソ連、ロシア時代になってもそのまま使っている」

 リボンの配色は、外側から黒・オレンジ・黒・オレンジ・黒で、3本の黒い線と2本のオレンジの線からなる。

戦車や装甲車の白い「Z」とは別に、ゲオルギーのリボンが「Z」に文字化されたものもある。

「プーチンの戦争」が長期化すると、兵力不足を補うために、ロシアの地下鉄などに徴兵ポスターが張られた。

ポスターには「ゲオルギーのリボン」でできた「Z」のマークのほかに、「わたしのすべきこと」として、18歳以上・短期契約・月収4万8000円~8万円(日本円換算)・追撃砲兵など軍務・経験不問――などと書かれていたそうだ。

 ゲオルギーとはそもそも何だろう。東方正教会(ロシア正教会)などの守護聖人の一人で、「ソ連時代を除いて、聖ゲオルギーが白馬に乗ったイラストが国章などにずっと使われてきた。それが黒とオレンジのリボンにシンボライズされたのだった」。

 2005年以降、対独戦勝記念日(5月9日)に、一般人もこのリボンを身に付けるようになった。国営通信のプロパガンダ戦略の結果、「勝利」や「愛国心」のシンボルに昇華したのだという。

2005年といえば、プーチン大統領が2期目に入ってすぐのときだ。彼はこのあと、大統領から首相になり、2012年から再び大統領を務める。

ロシアが2014年、ウクライナのクリミア半島を併合したときには、親ロシア派が黒とオレンジのストライプの布片を身に付けていたとか。

で、「Z」だが……。ロシア語を表記するキリル文字ではなく、ローマン・アルファベットで書かれている。

松田本にはさまざまな説が紹介されている。それを列挙するとかえって混乱する。「勝利のために」「ロシアのために」と書かれたロシア国内のスローガンを見ると、「ために」に当たるスペルが「ZA」になっている。「Z」の意味は「ために」に収斂する、という見解だった。

 ついでながら、ロシアの国旗はソ連崩壊後、帝国時代に使われていた白・青・赤の横三色旗が復活した。白はベラルーシ(白ロシア人)・青はウクライナ(小ロシア人)・赤はロシア(大ロシア人)を意味しているともいう。ロシアのウクライナ観が国旗からもうかがえる。

0 件のコメント: