2022年11月15日火曜日

自転車で植物研究

           
 日曜日は夏井川渓谷の隠居で過ごす。今の時期は、自宅で出た1週間分の生ごみを畑に埋め、自家消費用のネギを収穫するだけだ。

 11月13日も朝のうちに土いじりを終え、庭を一巡りしてキノコの有無を確かめた。この3週間近く、雨らしい雨がない。土が乾いている。モミの木と共生するアカモミタケも、今季はとうとう不作だった。

キノコ観察は採れたキノコだけをメモして終わりではない。目的のキノコがなければ、「なかった」と書きとめる。これもまたあとで貴重な記録になる。

というわけで、13日は庭巡りのあと、対岸のアカマツ=写真=を撮影して畑に戻った。アカマツには少し金色のメッシュが入っている。松枯れかどうか、これから経過を観察する。そのための記録写真でもある。

ネギの苗床を覆う落ち葉をよけ、立って一休みしていると、そばの道路から声がかかった。 旧知の元中学校長さんだった。自転車にまたがっている。「電動ですか」「いや、普通の自転車」

平・平窪の自宅から2時間半をかけて駆け上がって来た。なんという健脚! 確か、80歳になるかならないかだ。

 初めて言葉を交わしたのは、震災前の平成20(2008)年11月16日。隠居の隣の錦展望台を発着地に、第1回夏井川渓谷「紅葉ウオーキングフェスタ」が開かれた。

 週末だけの半住民である私も地元・牛小川の住民と共に、森の案内人を務めた。元校長先生も森の案内人に加わった。

そのころ、福島県の野生動植物保護サポーターを務めていた。今も務めている。あらためてもらった名刺には、ほかに環境省レッドリスト調査員、福島県植物研究会会員とあった。

元校長先生はそのころ、背戸峨廊(セドガロ)を主なフィールドにしていた。今は渓谷全体の森を熟知している。対岸の森を見やりながら、「知らないところはないくらいに入った」という。

尾根筋には“獣道”がある。そこをカモシカのように走って移動する山伏のような健脚の持ち主がいた。もう20年ほど前になる。知り合いが山岳縦走、いわゆるトレイルランニングの達人を隠居に連れてきた。

達人の縦走コースは尋常ではない。例えば、一般のハイカーは背戸峨廊に入渓すると、昼食の時間を入れて一周4時間はかかる。達人はここを1時間で回り切る。

隠居の目の前の山も、「あっちの沢、こっちの沢と、いろんな沢から尾根へはい上がって目印をつけ、それを頼りに川前から尾根筋を縦走した」という。それもこれもヒマラヤを目指してのことだといっていた。

元校長先生は駆け抜けるのではなく、植物をじっくり観察する、そのための山入りだ。夏井川流域のみならず、鮫川流域では、福島県レッドデータブックで未評価とされているスギランと、絶滅危惧Ⅰ類のクモランを確認した。

実は日曜日、隠居の行き帰りに自転車をこいでいる元校長先生をときどき見かけた。平窪地区は3年前の東日本台風で水害に見舞われた。それを乗り越えて植物研究を続けている。元校長先生も達人の一人といっていい。

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