夏井川渓谷の隠居の庭で栽培しているのは、今は三春ネギだけだ。ただし、“ふっつぇ(自生)野菜”は、それなりに大切に育てる。
シソやジャガイモ、辛み大根(たぶん会津地方で栽培されているアザキ大根)がそうだ。一度栽培したら、勝手に生えてくる。
シソは秋に穂ジソを摘む。ジャガイモは子イモしか取れないが、「みそかんぷら」にする。辛み大根は震災後、除染をして菜園を再開したときに知り合いから種が届き、三春ネギとともに栽培を始めた。
辛みの強いアザキ大根を初めて手にしたのは、平成19(2009)年の師走、道の駅よつくら港が一次オープンをしたときだった。テント村に奥会津・三島町のブースがあって、七色唐辛子やアザキ大根を売っていた。
どちらも買って味を確かめた。七色唐辛子は、実際には四味。こちらは自分でつくる「磐城七味」の参考にした。アザキ大根はおろして辛みを楽しんだ。この辛さが記憶に残っている。
わが隠居の辛み大根は手を抜けば抜くほどいい、世話を焼くとかえって貧弱なものになる――と知ったのは、何年か栽培を続けてから。
種は、春に紫色の花が咲いたあと、あり余るほど採れる。発泡スチロールのようなさやの中で眠っている。寿命が長い。
それとは別に、初夏から梅雨、取り残して地面にこぼれた落ちたさや(種)が、月遅れ盆のころにははじけて発芽する。
辛み大根にはみずから再生する力がある。「ふっつぇ大根」と知った翌年(2016年)からは、こぼれ種だけで発芽させることにした。
徐々に手抜きの度合いを強めていったが、ちゃんと野性の力でこたえてくれる。とにかく生命力が強い。
それまでは、ていねいに畝を耕して点まきにした。すると、細くて長い大根しかできなかった。辛み大根は、食べてはまずい。辛さを生かして大根おろしに利用するしかない。細長では大根おろしにもならない。土を耕したのが裏目に出た。
以来、辛み大根は不耕起で草が生えるように育つのを待つだけにしている。手を加えるのは、石灰散布、間引き、周囲の草刈り、追肥くらいだ。
今年(2022年)も間引きと草引き、ネギの追肥に合わせてぱらっと肥料をやるだけにとどめた。
想定外だったのは、青虫(モンシロチョウ)に黒虫(カブラハバチ)、葉裏に隠れているハスモンヨトウの幼虫の多さだった。
葉がボロボロになっているのを見て、日曜日に隠居へ行くたびに、キャリアカーに座って虫捕りを続けた。次の日曜日にもまた葉を眺めてプチッとやる。キリがない。
そうやっているうちに、根元に触れるとだいぶ膨らんでいる。ためしに一本引っこ抜いたら、いいあんばいにずんぐりしている。結局、4本を収穫した=写真。
その夜、さっそくおろしてかつお節を加え、しょうゆを垂らして舌に載せた。少したってから強烈な辛さが口内に広がる。これだ! 頭がボッと点火したように熱くなる。これがアザキ大根なのだ、アザキ大根のすごいところなのだ、と実感した。
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