会社を辞めると同時に、車をパジェロからフィットに切り替えた。ガソリン消費、つまりは出費を抑えるためだ。
以来、今日まで15年。街や山野を巡る足として重宝してきたが、車も年を取る。フィット以上に燃費がよくて、手ごろな値段の中古車をと、懇意にしている若い業者に頼んだ。まもなく新しい車がやって来る。
燃費の良い車でよかった――。フィットには生涯忘れられない思い出がある。平成23(2011)年3月11日、東日本大震災が発生する。追い打ちをかけるように、東電の福島第一原発が事故を起こす。
いつなんどき、「放射能雲」が雨や雪になって降りかかるかわからない。3月15日、放射能への不安がピークに達して、息子一家、義妹と娘、われら夫婦と、2台の車で中通りの南端、西郷村の山中にある教育施設へとたどり着いた。そこに9日滞在した。
春分の日を過ぎていわきへ戻った。問題は車の燃料だ。燃料計の針は「E(空っぽ)」からわずか4つめの目盛を指しているにすぎない。車載の取扱説明書を初めてじっくり読んだ。
以下は、当時のブログの抜粋。――ガソリンの容量は42リットル。燃料計の目盛は25。25で42を割れば、一目盛当たり約1.8リットルということになる。
車はフィット。「リッター20キロ」としてガソリン残量7.2リットル。140キロ超は走行が可能だ。いわきへの最短コース、国道289号を利用すればガス欠をせずに帰宅できるのではないか。
で、教育施設から国道289号に出て、ただひたすら南東方向のいわきを目指した。白河市から棚倉町へ抜け、鮫川村へ入ったところで、燃料残量警告灯が点灯する。
警告灯は残り7リットル前後で点灯すると、取扱説明書にあった。計算上はまだ100キロ以上は走行可能だ――。
そうやってドキドキしながら帰還した経験があるので、この12年間というもの、燃料計の針が半分を指すと、すぐ満タンにしてきた。
たぶん、フィットでは最後のドライブになる日曜日(11月20日)、燃料計の針の位置を確かめ(あのときと同じ「E」に近い)、12年前の経験をおさらいして出かけた。
好間の生木葉ファームで買い物をし、近くのギャラリー木もれびで「峰丘展」を見たあと、三和のふれあい市場で白菜や漬物などを買った。
あとは山を越えて夏井川渓谷の隠居へ向かうだけ、という段になって、燃料残量警告灯が点灯した=写真。
きたか! 12年前の経験で大丈夫とはわかっていても、気持ちがだんだん落ち着かなくなる。
隠居で土いじりをし、昼食をとったあと、渓谷から平地の小川町へ下ったところで、ガソリンスタンドに飛び込んだ。10リットルだけ補給する。
スタンドの従業員が車の窓ガラスを拭いてくれた。最後はきれいにして別れよう、そう思っていたので助かった。
同時に、燃料残量警告灯が消え、針も半分近くまで戻る。こうなったら、最後にまた一走り、どこかへ出かけてみるか、などと調子のいいことを考えた。
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