87歳の元官僚が池袋で起こした交通死亡事故と同じように、福島市で起きた97歳の交通死亡事故が大きなニュースになっている。
事故は土曜日(11月19日)夕方に発生した。翌日の新聞は事故の概略を伝えるだけだった。調べが進んでいなかったのだろう。月曜日(11月21日)の続報に仰天した。
運転していたのはよく知られた歌人だった。会ったことはない。が、いわきの文学史をひもとくと、戦後短歌の項に名前が出てくる。いわき市出身で福島市に住む。弟に作家の故吉原公一郎がいる。
先日まで、いわき市勿来文学歴史館で歌人白木英尾のスポット展示が行われた。白木もまたいわきの戦後短歌史の一翼を担う。その白木よりはおおよそ一回り若い。
同館のこれまでの事業内容からすれば、いずれ企画展示の対象になってもおかしくない――そんな実力を備えた歌人だ。
それもあって、高齢者が車を運転して重大事故を起こした、というだけにとどまらず、間接的ながら知っている人間が起こした、という気持ちが強い。ヒトゴトではいられない。
突然亡くなった人の無念と、妻を、母を失った家族の悲しみを思う。同時に、「容疑者」となった歌人とその家族にも心が向かう。
報道によると、歌人は独り暮らしだった。子どもたちは遠く離れて暮らしている。独りで日常のあれこれをこなさないといけなかった。
年齢的なことはともかく、地方都市では、自家用車がないと移動がままならない。池袋の交通死亡事故が起きてほどなく、磐梯熱海温泉でミニ同級会を開いたとき、東京在住の一人が「免許証を返納した」と話した。そのときのブログを抜粋する。
――東京の仲間の決断を理解しながらも、地方在住者としては、まだまだ返納は考えられない。
いわきでは、頼みの公共交通機関が貧弱だ。利用者減で電車(ディーセル車)の便数が減ったり、バスの路線が廃止されたりしている。車がないとどこへも行けない、つまり生活が成り立たない。
一方で、運転者は高齢化する。年を重ねるごとに運転技術が低下する。バックで庭から道路へ出る、街の駐車場に入れる、というとき、どちらかに寄りすぎたり、斜めに止まったりする回数が増えた。夜の運転はできれば避けたい、そんな気持ちにもなってきた。
逆走運転をしたり、ブレーキペダルとアクセルペダルを踏み間違えて大事故を起こしたりするのは、こういうささいな運転技術の低下の繰り返しと、加齢による認識能力の低下が重なった結果ではないのか――。
それから3年半が過ぎて、また高齢者が加害者の重大事故が起きた。免許証返納と日常生活の維持と、どうバランスをとるのか、悩ましい。
12年前のブログで、作家の故草野比佐さん(三和町)が若いころ、歌人と二人で出した歌誌「翅」=写真=に触れている。それもあって、なぜ事故が起きたのか、そのことが頭から離れない。
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