平や小川町をハクチョウが飛び交っている=写真(2011年1月4日撮影)。わが家の上空を通る個体もいる。その下では、いろんなことが起こる。
「おばあさんが道に迷ってます」。夕方5時過ぎ、突然、中3男子が店(米屋)に飛び込んで来た。カミサンが応対した。学校は隣の学区にある。孫の同級生だという。
「そこにいます」。同じ学校の3年女子がおばあさんに付き添っていた。わが家から600メートルほど先のスーパー付近でおばあさんと出会った。
「ほっとけない」。中3なりにそう思ったのだろう。おばあさんを自宅へ送って行こうとしたら、逆の方向へ来た。
住所を聞けば、隣の行政区、つまりは生徒たちが通う中学校の学区内だ。中3女子と一緒に、カミサンが付き添って自宅へ送り届けることにした。
まずは、スーパー辺りまで戻る。それからもっと先へ……。でも、要領を得ない。中学校の近くまで来ると、校庭に明かりがついていて、まだ部活をやっている。女子生徒が駆けていくと、教頭先生がやって来た。
女子生徒が孫の名前を言って、カミサンを紹介する。孫が所属していた運動部の顧問だという。
教頭先生が、おばあさんが覚えている番号に電話すると、つながった。あとは先生にまかせて、女子生徒と一緒に家路に就いた。
もう4時半となれば、日は沈んでいる。車ならライトを付けないと走れない。そんな時間帯に、おばあさんが道に迷った。
「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」がある。それを知りたくて、前にネットから情報を引っ張り出したり、図書館から本を借りて読んだりした。
医師で作家の久坂部羊さんが書いた『老乱』(朝日新聞出版、2016年)に、重度だが穏やかに暮らしている認知症者のおじいさんが登場する。
訪問診療をしている医師が、世話をしているお嫁さんに聞いた。なぜそこまでやさしくなれるのか、と。
「自分たちが若いころ、おじいちゃんにはずいぶん親切にしてもらったんです。いろんな面で助けられたし、支えになってもらいました。だから、今はその恩返しなんです」
そのやさしさとは違うかもしれないが、中3生は困った人がいるのに気づいて、通り過ぎることができなかった。それに、カミサンが反応した。
男子生徒と別れ、2人でおばあさんに付き添うこと1時間。おばあさんを教頭先生に託してからは、おしゃべりしながら戻った。
女子生徒は学校のことや将来の夢のことなどを語ったという。カミサンがあれこれ聞いたのだろう。結果的に、年が離れた女子2人の「長い夜の散歩」になった。
それはともかく、中学生ともなれば、もう立派な地域社会の一員だ。一人の人間として、ちゃんと判断ができ、行動がとれる。それで、おばあさんが道に迷ったまま夜気にさらされ続ける事態が避けられた。その「幸運」を思った。
0 件のコメント:
コメントを投稿