2022年12月3日土曜日

同人誌「麦笛」

                                 
 仙台市の麦の会から同人誌「麦笛」が届いた=写真。添え状に、麦の会は仙台市在住の作家佐伯一麦さんを講師に、約20年前、カルチャー教室創作講座参加者有志で結成された市民グループ、とあった。

 月1回、創作講座を開き、不定期ながら会員の作品を集めた同人誌「麦笛」を発行し、地方から文学を発信することを目的に活動している、ともあった。

 その第20号だ。編集人は佐伯さん。久しぶりに実務作業に携わったという。発行日は今年(2022年)の12月1日。できるとすぐ郵送されてきた。佐伯さんの配慮だろう。

 11月5日にいわき市立草野心平記念文学館で吉野せい賞表彰式が行われた。そのあと、佐伯さんが「厄災と文学」と題して記念講演をした。

 佐伯さんはいわき出身の作家、故河林満さんと交流があった。河林さんはいわきで同人誌「文藝いわき」を主宰し、佐伯さんを招いて講演会を開いたことがある。同誌に載った中身を見ると、河林さんによる佐伯さんのインタビュー記事だ。「麦笛」にも同じように河林さんのインタビュー記事が載っているという。

 去年出版された『黒い水/穀雨 河林満作品集』(インパクト出版会)を読んだ感想と、佐伯さんの「厄災と文学」の話を、2日にわたってブログに書いた。

 佐伯さんの作品に『川筋物語』がある。「定義(じょうげ)」の章に、旧浄土宗名越派の極楽山西方寺が登場する。本山は磐城平の専称寺だ。

 記念講演のあと、心平記念文学館で開催中の「萩原朔太郎大全2022―詩の岬―」を観覧中の佐伯さんに名刺を渡し、そのことを伝えた。同人誌の恵贈はそれへの返礼でもあったろう。

 記念講演では、「麦笛」の同人の作品も紹介した。その一人が、元八木山動物園長の遠藤源一郎さん。「麦笛」第20号の巻頭に遠藤さんの短編「瓦礫(がれき)を拾う」が載る。

 主人公の「佐藤孝之」は兼業農家だ。大津波に自宅と父親が流される。近くに住んでいた兄も遺体で発見された。孝之は仮住まいのアパートから勤務が休みの日、自宅跡に来て瓦礫を拾い続ける。ボランティアの助けも借りる。

 やがて自宅跡を畑にして野菜の苗を植える。震災前に注文していた野菜や花の種が仮住まいのアパートに届く。これも自宅跡にプランターを並べて育てた。

震災の翌年には家を新築し、退職後は有機稲作研究所の研修会に参加し、認定農家になる。

無農薬で稲を栽培し、田んぼでメダカも飼った。「仙台メダカ米」として玄米と精米を直売市に並べた。師走最後の市が終わる。年越しの準備をすませて、震災から4年目の正月を迎えた――。主人公が一歩ずつ、震災から立ち直る姿がつづられる。

ネットで、遠藤さんの「『種をまく人』を読んで」(第11回家の光読書エッセイ賞)を読んで、作品は自分の実体験がベースになっていることを知った。

 佐伯さんは編集後記のなかで「抑制された語り口のなかに、震災から十一年経ってようやく語れることがある、と思い知らされる佳品である」と評している。ほかの作品も、これからじっくり読む。

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