この何年か、いわきの福祉行政の分野で目を見張るような情報発信が続いた。それで、若い人たちによる「入棺」体験を知った。これには衝撃を受けた。プロのカメラマンによるシニアポートレート撮影には、知人夫妻が参加した。
死をタブー視しない、人生の最期を幸せなものに――。突き詰めれば、ここにたどりつくように思われた。
そのための情報を、フリーペーパー「igoku」とウェブマガジンを立ち上げて発信し、イベントを開催した。
新しい福祉行政でもある「地域包括ケア」を市民に周知し、理解してもらうのが目的のようだった。
この啓発事業は、発案者である市職員が、市民でもある同世代かそれより若いデザイナーやライター、リサーチャーなどを巻き込んで、一緒に「現場」を見て回ることで、発信に深みと広がりを生み、新しい風を吹かせることに成功した。
行政の事業には違いないが、行政にありがちな予定調和を超えている。いや、それ以前の、いわば言葉として整理されていない現場の混沌に身を投じながら、それに感応しつつ文字化(レポート)するというスタイルが新鮮だった。
秋口に、その活動のあらましを振り返る、いごく編集部著『igoku本』の恵贈にあずかった=写真。添え書きに「医療介護、地域包括ケアにとどまらず、ローカル、デザイン、クリエイティブ、チームの組み方や動かし方、余白や非効率の重要性など、様々な分野についてメンバーが考察しています」とあった。
添え書きを自分なりに解釈すると、こんなふうにいえるのではないか。地域の中に入っていって、地域の人たちと一緒になってコトを進めるうちに、新しい発見があり、新しいつながりができる。このつながりがそれぞれのなかでさらに増殖して、スタッフ自身の血肉となる。
たとえば、川平(内郷)の「キャップ踊り」、北二区(好間)の「カカシ祭り」といった、スタッフの想像を超える発想に触れるなかで、いごく編集部の方向性も見えてきたとデザイナー氏は書く。さらには、「デザイナーとは根源的に『福祉職』なのかも」と言い切る。
それらを象徴する言葉として、スタッフは「まじめにふまじめ」をあげる。私は従来の発想にとらわれずにコトにあたるという意味では、「まじめ」「ふまじめ」を超えた「非まじめ」を使いたい。そこから新しい風が吹くと思っている。
それはともかく、『igoku本』は今年(2022年)読んだ本のなかでは異色も異色、しかし、何か新しいことをやってみようと思う人間には、大いに役立つ本かもしれない。
師走のある日、冒頭に紹介した知人の葬式があった。会場にはプロが撮影したポートレートが飾られていた。それに触発されてまた『igoku本』を手に取った。
※お知らせ=大みそかと正月3が日はブログを休みます。
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