2022年12月11日日曜日

世界の酒マップ

                              
 「ウィスキーを水でわるように/言葉を意味でわるわけにはいかない」。萩原朔美前橋文学館長が、いわき市立草野心平記念文学館で講演し、冒頭、田村隆一の詩句を引用して散文と詩の違いを説明した。

 それに触発されたわけではないが、今、『イラストでめぐる80杯の図鑑 世界お酒MAPS』(グラフィックス社、2020年)=写真=という本を読んでいる。

 タイトルを見たとき、パッと思い浮かんだのがノルウェーのアクアヴィット(ジャガイモの蒸留酒)だった。

還暦を記念して同級生と北欧を巡った。ノルウェーの港町ベルゲンの世界遺産・ブリッゲンのレストランで、仲間の1人がこれをなめて上機嫌になった。

その後、台湾へ、ベトナム・カンボジアへと空を飛ぶたびに、海外出張経験の豊富な1人が搭乗前に空港内の免税店でウイスキーを買った。

毎夜、夕食時のアルコールだけでは飲み足りない。ホテルの部屋で飲み直し、語り直すために、どうせならうまい酒、いい酒を、という旅慣れた者の知恵だった。スコッチウイスキーの「バランタイン17」はそうして知った。

飲酒歴は長い。いろんな酒を飲んできた。日本酒、ビール、ウイスキー、焼酎、ワイン。ジンやアブサンは若くてカネがなかったとき、紹興酒やテキーラ、イエニラク(トルコの蒸留酒)は飲み会で、あるいはたまたま手に入ったとき、試しに。

『世界お酒MAPS』には、アブサンはあるが、テキーラも、イエニラクもない。テキーラの代わりにメスカルがあった。

解説を読んで納得した。メスカルもテキーラもアガベ(リュウゼツラン)を原料にしている。イコールではないか。違いは、テキーラは工場で生産され、メスカルは伝統製法でつくられる、などといったことだそうだ。

 拙ブログではときどき、酒にまつわる話を書いている。人類がアルコールに出合った最初のシーンを鮮やかに描いた本がある。それを紹介したブログを要約して再掲する。

――『酵母 文明を発酵させる菌の話』(草思社)は、人類がアルコールと出合ったシーンをこう描く。

熱帯雨林がある。地面にはアルコールの蒸気を立ち昇らせる果実がいっぱい落ちている。ゴリラやチンパンジー、ボノボ、ヒトといった森の住人が地面を歩いて、このごちそうを集めることを覚える。

「酵母(糖依存菌)は、文明が誕生した当初から目に見えないパートナーとして文明に寄り添ってきた」。人類の祖先が森林を離れ、定住して農耕を始める大きな原動力になったのは、酵母がつくるビールやワインだったという。なるほど。

「酔っ払ったサル」は、酒をつくることを覚えた。酒をつくって飲むのはホモ・サピエンスの決定的特徴だという。しかし、「百薬の長」でも、「享楽の夜」のあとには「頭痛の朝」が待っている――。

草野心平の日記にはたびたび「宿酔」の文字が出てくる。「四日酔苦し」(55歳)、あるいは「五日酔也」(61歳)。それでも、詩人は84歳まで生きた。酒を友として。

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