2022年12月9日金曜日

素材のおいしさ

                      
 私は、いわきの言葉でいう「きっつぁし」(挿し木=よそから来て住み着いた人間)だ。阿武隈の山里で生まれ育ち、15歳で平市(現いわき市平)の高専に入った。その後、4年近くを東京で過ごし、22歳でJターンをしていわき民報の記者になった。

24歳で結婚し、夏にカミサンの実家(米屋)でカツオの刺し身を食べて、そのうまさに感動した。カツ刺しのとりこになって、いわきに根っこを生やす覚悟ができた、といってもいい。

古い市営住宅(戸建ての木造平屋)から、今の家(カミサンの実家の支店)に移り住み、近所のスナックで飲んだときに食べたカツ刺しにもびっくりした。

どこの魚屋から仕入れるのかを聞いて、30代前半からそこへカツ刺しを買いに行くようになった。今は2代目に代わった。

数年前までは、カツオのない冬場は休んでいたが、今はあるなしにかかわらず、毎日曜日、なにかの刺し身を食べる。

今年(2022年)も11月後半から、カツオ以外の刺し身に替わった。やがて新年を迎え、早いときには正月のうちに「初ガツオ」が入る。それまでのつなぎ、だけではない。ヒラメなどの刺し身もうまい。要は何の刺し身もいける。刺し身にすれば、日曜日の夜はカミサンも調理から解放される。

12月最初の日曜日は、アジとヒラメ、マグロの盛り合わせにしてもらった=写真。そのときに2代目が発した言葉に「そうか、そうだよな」と納得した。

刺し身は「素材」そのものだ。さばいて、切って、盛り付けるだけ。私はそれを、醬油とわさび(カツオの場合はプラスおろしにんにく)で食べる。握り寿司もそうだろう。できるだけ手を加えないで素材の味を生かす。それが和食の基本。

夏が旬のスズキの場合。「今の時期はやせたスズキしか入ってこない。それを引き取るのは洋食屋さん」。素材としてみると、魚屋はやせたスズキには手を出さない。しかし、洋食の場合は調理のウデがある。

たとえば、フランス料理の特徴をネットで探ると、こんなことが書いてある。調理技法や調味料に工夫を凝らす。風味・色彩・形・味を芸術のレベルまで仕上げる。

歴史的な背景には、中世時代まで物流が悪く、新鮮な素材が宮廷へ届くのに時間がかかり、古くなってしまうこともしばしばだった――そんなことが逆に多彩な調理技法と調味料を発達させたのだろう。

素材がいのちの刺し身にも個性がある。マグロはカツオより口どけが早い。アジは歯ごたえがあって、噛めば噛むほど甘みが増す。

歯の悪い義弟やカミサンは主にマグロを、私はアジを食べた。同じ日本人でも、歯の具合で刺し身に好みがあらわれる。

ま、それはともかく、次はどんな刺し身が待っているのか、師走から正月は素材を選ぶ楽しみが膨らむ。

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