2023年6月15日木曜日

本からたどる草野心平

                     
 いわき総合図書館が6月12日から蔵書の特別整理期間に入った。同23日まで休館が続く。毎年恒例のこととはいえ、こんなときに限って読みたい本が出てくる。

 12日、借りる本をメモして行ってくるかという段になって、6月の整理期間を思い出す。図書館のホームページで確かめると、やはりそうだった。ちょうどその日から10日余りは、前に借りてきた本で我慢するしかない。

 草野心平の生誕120年を記念して、同図書館で企画展「本からたどる草野心平」が開かれている。ネクスト情報はましんも、広報誌で「草野心平と上小川」を特集した。

両方の資料=写真=から、あらためて心平の生い立ちやその後の足跡の一端をなぞることができる。

 「本からたどる草野心平」は、図書館所蔵の心平著作物を紹介している。単行本としては「貸出禁」もある。それが『草野心平全集』に入っていれば、全集の方を借りればいい。そのへんをホームページでチェックした。

 『運命の人』は中国人の汪精衛(兆銘)を主人公にした小説だ。1955年発行の原本は「貸出禁」だが、全集の第7巻には収録されている。

 ネットによると、汪精衛は孫文の側近で中国国民党員だった。国民政府内で蒋介石と対立し、日中戦争のさなか、重慶政府を離脱、1940年3月に親日政権の南京国民政府を樹立して首班となった。

日本を飛び出して、広東・嶺南大学(現・中山大学)に留学した青年時代はともかく、心平は1940年7月、南京にできた中華民国政府(汪精衛政権)の宣伝部顧問として中国に渡る。

以後、敗戦で帰国するまでの6年近い中国時代を、私はよく知らない。そこに踏み込んでみようと、総合図書館が特別整理期間に入る前、全集の第7巻を借りてきた。それを読み続けている。

 南京政府の下で宣伝部長を務めた、汪精衛の側近に林柏生がいる。林柏生は、心平とは嶺南大学の同窓生だった。いわば、親友である。南京政府ができるとほどなく、林柏生から心平に声がかかった。

 汪精衛は終戦の前年11月、日本の病院で亡くなり、林柏生は国民政府によって1946年、処刑される――。

心平は『運命の人』で汪精衛を主人公に、1939~40年の日中和平工作をめぐる歴史をつづった。

 それで汪精衛を理解したわけではないが、ささいな「発見」があった。小説に、上海の有力日字新聞・T新報の若い記者として「北見十蔵」が登場する。

心平は若いころ、「北山癌蔵」というペンネームを使っていた。北山癌蔵と似た名前から、北見十蔵は心平の分身かもしれない、などと思った。

 北見十蔵はこんなことを語っている。「僕は汪精衛には、正直のところうたれた。あの和平への熱情はほんものです」。これがやがて『運命の人』につながった、という解釈はどうだろう。時間はあるので、その視点でもう一度読み直してみるか。

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