2023年6月18日日曜日

ラクダの本

                                
 ラクダについては全く知らない。映画「アラビアのロレンス」でピーター・オトゥール(1932~2013年)が、ラクダを乗りこなすシーンを覚えているだけだ。

 それから、童謡「月の沙漠」の出だし。「月の沙漠を はるばると/旅のらくだが ゆきました」。メルヘン調のイメージが頭に浮かぶ。

 いわき総合図書館の新着図書コーナーに今村薫編『ラクダ、苛烈な自然で人と生きる――進化、生態、共生』(風響社、2023年)があった=写真。

 これはおもしろそうだ、未知の世界に触れられる――。それだけの理由ですぐ借りた。読みだすと、それこそ驚きの連続だった。

 「はじめに」に、こんなことが書いてある。「気候変動による地球の砂漠化が進むと、乾燥に強いラクダが最後の救世主になるかもしれない」

 ラクダの先祖の話も意外だった。約4500万年前、北アメリカ大陸で小さなウサギくらいの動物として誕生したという。

 その後、地球の寒冷化に伴い、この動物は二つの系統に分かれる。一つは、寒冷化に耐えるために大型化し、約800万年前にベーリング陸橋を渡ってユーラシア大陸へ進出した。もう一つは、寒さを避けて南下し、パナマ地峡を越えて南アメリカ大陸に移動した。

 前者は家畜種のフタコブラクダとヒトコブラクダに分かれ、後者はビクーニャと家畜種のアルパカ、グアナコと家畜種のラマになった。

 人類はアフリカ大陸で生まれ、北へ、東へと移動した。ラクダは、それとは逆の道筋をたどったわけだ。

 ラクダは「砂漠の船」と言われるそうだ。なかでも東西文明の長距離交易は、ラクダなしでは不可能だった。「シルクロード」に象徴される人とモノの交易を支えたのがラクダというわけだ。

 「シルクロードの始まりは、紀元前114年に漢王朝が中央アジアに進出したことに始まり、その後15世紀ごろまで続いたとされるが、この間ずっとこの交易路は、車輪を使った乗り物には適さない道だった。シルクロードはラクダが通ってできた道のネットワークである」

 そして、近・現代のラクダ利用は①肉②乳③被毛④糞⑤運搬⑥騎乗⑦軍用⑧娯楽――などだという。

 食肉としての利用は新旧大陸で共通している。アフリカ諸国で飼育ラクダ(特にヒトコブ)が増えているのはこのため。

糞は暖をとり、料理をするための熱源になる。「サハラ砂漠の隊商は、草一本生えない砂漠で燃料を確保するために、ラクダの糞を収集しながら移動した」そうだ。

近年のラクダは運搬・牽引の役目を終え、ラクダレースやラクダ相撲といった娯楽にも用いられる。ラクダ相撲は、基本的には首をテコにして相手を倒したラクダが勝ちになる。トルコで盛んだという。

とまあ、こんな感じでラクダの世界を駆け足でのぞいたが、やはり気候変動による地球の砂漠化と切り離しては考えられない。そこがラクダ考の始まりであり、終わりではないかと感じ入った。

0 件のコメント: