2020年5月17日日曜日

ヒミズの死

 夏井川渓谷の隠居ではジネズミがうろついているらしい。畳の上に黒く小さな糞(ふん)が転がっている。
 2年半前の2017年12月には、空っぽの浴槽で1匹が死んでいた。ネズミっぽい。が、ネズミにしては鼻先が細く長い。尾はひも状で頭胴長は7センチほど。似た大きさのいきものにヒミズがいる。こちらは、前足がやや大きい。耳はあるかないかわからないくらいに小さい。尾はブラシのようになっている。細長い鼻先からして、浴槽で死んでいたのは、ヒミズではなくジネズミと思われた。

 そんな“事件”をすっかり忘れていた今年(2020年)の4月初め、隠居の庭に黒く小さないきものの死骸(しがい)が転がっていた=写真上1。大きな前足とブラシのような尾っぽから、ヒミズだろうと推測がついた。

 これはネットからの受け売り――。ヒミズは低山域の森林にすむ。コケや草本に覆われた場所なら、岩場や砂礫(されき)の多いところでも生活できる。モグラは地中にトンネル網を張り巡らせる。ヒミズは主に落ち葉層をえさ場にしており、地上に出ることも多い。繁殖期は2~5月で、生後約1カ月で成獣と同じ大きさになる。
 2010年10月後半のある日曜日、隠居の庭の草刈りに疲れ、外のテーブルの長いすで休んでいると、足元をちょろちょろ動く黒い小動物がいた=写真上2。

テーブルは、丸太の脚4本に角材を渡して厚めの板3枚を載せただけの簡素なものだ。長年、風雨にさらされて腐朽が進んだ。その脚の底から、小動物がとがった肉色の鼻をひくひくさせながら、苔(こけ)のあいだにできたジグザグ道を行ったり来たりしている。絶えずおどおど、びくびくしていて、カメラのシャッター音にも驚いてすぐ脚の底に引っ込む。そこに巣でもあるのだろう。

 当時はモグラの一種くらいにしか思わなかったが、今はジネズミとモグラの中間の存在ともいうべきヒミズと断言できる。しかし、なぜ4月のヒミズは苔の上で死んでいたのだろう。

ヒミズの天敵はキツネ、イタチ、家ネコなどで、幼獣の死骸には肉食動物の咬傷(こうしょう)らしい出血や骨の折損が見られるそうだが、素人にはよくわからない。ただ異様に毛並みが乱れていること、肌が一部のぞいていることから、イタチかなにかにかみ殺された可能性は否定できない。

当たり前といえば当たり前なのだが、次の日曜日に隠居へ行くと、ヒミズの死骸はなかった。自然のなかでは死もまた別の生のエネルギーになる。その意味では無駄がない。

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