春から初夏へ、梅雨から盛夏へ――エアコンのないわが家では、少しずつ窓、戸が開け放たれる。
庭の木々は年々育って緑の密度を増してきた。明け放たれた茶の間はそのまま庭の延長になる。それだけではない。北側の店と南側の自宅玄関の間に風の通路ができる。虫たちが茶の間だけでなく、風の通路にも迷い込む。
アシナガバチはもう“同居人”と変わらない。茶の間の軒下にある巣が一回りも二回りも大きくなった。働きバチの数も増えた。たまに茶の間に現れても、見て見ぬふりをする。黙っていれば、そのうち巣へ帰る。
アシナガバチは撮り飽きたが、アオスジアゲハとなれば別だ。昼前、店と自宅の間の帳場にいたカミサンが叫ぶ。「アオスジアゲハ!」。帳場の蛍光灯の下でヒラヒラ舞っている。急いでパチパチやる。
翌日の夜9時過ぎには、見たこともないチョウがやって来た。天井の梁(はり)に止まったところを撮影し=写真上1、データを拡大して形と紋様をスケッチしたあと、ネットで検索した。クロコノマチョウ(漢字では、「黒木間蝶」)だった。裏翅(ばね)の紋様からジャノメチョウの仲間を、翅のへりのギザギザからタテハチョウの仲間を連想したが、タテハチョウ科、ジャノメチョウ科両方の記述がある。ほんとうはどっちだろう。
アオスジアゲハも北上してきたチョウだが、クロコノマチョウも南方系のチョウで、北上中らしい。ある報告では「茨城県の太平洋岸北上回廊を経て、東北南部の太平洋岸(福島県浜通り)に侵入」とある。在来のチョウから見れば、「北上」は「侵入」になるわけだ。これだって地球温暖化のあかしに違いない。
キノコ界にも同じことがいえる。ちょっと前、熱帯のキノコ(アカイカタケ)がいわきの山中で発見された。冬の寒さが緩んだために、南方系のキノコの胞子もチョウもいわきで越冬が可能になった、ということなのだろうか。
エアコンのない「昭和の家」だからこそ、いながらにして“昆虫採集”ができる。そこが撮影の“現場”になる。
盆の入りのきのう(8月13日)夜、突然、客人が3人やって来た。茶の間で晩酌中だったので、酒盛りになった。「エアコン入れなくちゃ」と、1人がいう。確かに、茶の間には昼の暑さがこもっていた。
そこへ、玄関からキアゲハが迷い込んできた。「誰かの魂が帰って来たんだね」と、もう1人がいう。「いや、この家ではまだ1人も死んでいないから」と答えながら、先日亡くなった年下の友人の顔が思い浮かんだ。
「それにしても、じゃんがらの音がしないね」。「じゃんがら」とは月遅れ盆、主に青年会が新盆の家々を回って念仏を唱え、踊るいわき独特の伝統芸能「じゃんがら念仏踊り」のことだ。今年(2020年)は新型コロナウイルス感染防止のため、団体によって実施・中止と対応が分かれた。「チャンカ、チャンカ」の鉦(かね)の音が聞こえない、寂しいお盆になった。
今朝起きると、茶の間にまだキアゲハがいた。一泊したらしい。さっそくカメラで“昆虫採集”をする=写真上2。右側の尾状突起が欠けているのは、鳥かなにかに襲われたためか。
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