2020年8月23日日曜日

アシナガバチの巣が消えた

                     

茶の間の縁側の上、波形のポリカーボネートの庇(ひさし)に、アシナガバチが巣をかけた。下から様子をうかがうたびに、正六角形のハニカム構造の巣房(すぼう)が大きくなっている。でも、わが家の軒下では、最大径10センチを超えるようなことはない。

巣と茶の間はガラス戸1枚で遮られているだけ。この暑さだから、早朝から夜更けまで戸は開け放たれている。ときどき茶の間にアシナガが現れる。黙っていれば、いつかは巣に戻る。

私はいちおう“共存”派だ。カミサンも渋々それに従ってはいる。が、目の前に現れると、「キャー」「イヤー」となる。叫べばかえってハチを刺激する。そのつど、静かにしているようにいうのだが、怖いものは怖いから、体が反応してしまうようだ。

おととい(8月21日)は、朝、いつものように歯磨きをしながら“観察”すると――。巣が! 巣が、影も形もない! スズメバチに襲撃されたとしても、巣は残る。だれかがめちゃめちゃにしたとしても、巣の痕跡はある。それが、巣の付け根からきれいさっぱり消えてなくなっている。

 なぜ巣が消えたのか――あれこれ推理してみる。私もカミサンも、巣には全くノータッチだ。第三者が勝手に除去した? あり得ない。スズメバチの襲撃もあり得ない。

巣は消えても、アシナガバチは茶の間に現れる。扇風機に飛び込んで、はじきとばされて息絶えた個体もある。最初は、巣を探してパニックになっているのではないか――そう思ったが、茶の間に現れる回数は以前とそう変わらない。いつもと同じなのが、おかしい。

 アメリカのデスバレーで8月16日の気温が54.4度に達したという。ここでは1913年、56.7度の世界最高気温を記録した。クレヨンを置くと、ほどなくドロドロに溶けて流れ出す。テレビが「死の谷」の炎熱地獄ぶりを報じていた。

それを見たとき、ピンときた。庇のポリカーボネートが直射日光でガンガン熱せられ、40度はおろか50度、いや目玉焼きができるくらいになった。ポリカーボネート自体は耐熱性があっても、アシナガバチの巣を支えていた根元の“ノリ”が、連日の酷暑で溶けてゆるみ、そっくりそのまま落下したのではないか。

 つまり、こういうことだ。アシナガバチは樹皮の繊維と自分の唾液(だえき)で巣をつくる。その巣は横から見ると、ワイングラスに似る。巣房がボウル、柄(脚)がステム、付け根がプレート。ワイングラスと違って、アシナガバチのステムはとても短い。プレートも小さい。巣そのものは軽くて強い和紙のようだが、付け根の“ノリ”が異常な暑さにゆるんで、ツルツルのポリカーボネートからはがれ落ちた――。

 庇の巣の下には雨戸の屋根がある。その前にはスチール製の戸棚。戸棚の上には飼っていた猫の寝床(元は人間の乳児を入れておいたわら製の“えじこ”)が載っている。

 縁側に置いてあるイスにのって、雨戸の屋根を見る。なにもない。次に“えじこ”を見る。と、ハチの巣がそっくりそのまま横たわっていた=写真。巣を守っていたハチたちもそのままいる。推理したとおりだった。

付け根がはがれて雨戸の屋根に落ち、さらにはずみで“えじこ”に落ちた。デスバレーのクレヨンと同じことが、わが家でも起きたらしい。

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