毎週日曜日に夏井川渓谷へ通っているが、この異変には気づかなかった。一部の山が点々と“紅葉”している。万緑のはずの夏になぜ?
おととい(8月13日)の木曜日早朝、渓谷の隠居へキュウリを摘みに行った。6時を過ぎると意外に車の通行量が多い(遠距離通勤のため?)。5時台だったので、対向車両も後続車両もほとんどなかった。ゆっくり車を進めると渓谷の手前、小川・高崎の夏井川第三発電所を過ぎたあたりから、左手(夏井川右岸)に“紅葉”が見えてきた。
JR磐越東線の磐城街道高崎踏切・上小川トンネルを越え、地獄坂(十石坂)を上って渓谷に入ると、同川第一発電所の背後の尾根に、赤いかたまりが点々と連なっていた=写真上。踏切の手前、枯れ葉をまとった谷沿いの木を見たら広葉樹だ=写真下。一つの尾根で20本、いやそれ以上か。この“茶髪”の多さは尋常ではない。
渓谷のど真ん中、牛小川に隠居がある。対岸には同川第二発電所。阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が起きた平成7(1995)年の夏から、毎週通い続けている。そのころ、渓谷の斜面の赤松はまだ元気なように見えた。が、年々、松葉に黄色いメッシュが入り、“茶髪”が増え、やがて樹皮の亀甲模様もはがれ落ちて、白い幹と枝だけの“卒塔婆”になった。尾根筋の松にも“白骨”化したものがある。
それから10年余りたったころ、再び松枯れ現象が起きた。隠居から見える範囲の“茶髪”は赤松、つまり針葉樹だ。広葉樹に“茶髪”はない。「枯れるのは松」という思い込みと、対向車両に意識が集中していたこともあって、下流の広葉樹の“茶髪”に気づくのが遅れたようだ。
もしかして、これが会津地方などで問題になっている「ナラ枯れ」というやつだろうか。だとしたら、犯人は昆虫のカシノナガキクイムシ(カシナガ)だ。
福島県いわき農林事務所森林林業部の「カシノナガキクイムシ被害対策について」によると、「ナラ枯れ」は、ミズナラ・カシワ・コナラ・クリ・シイ・カシなどの樹木にカシナガが穿入(せんにゅう)し、ナラ菌が繁殖することで樹木を枯死させる現象をいう。いわきでは平成30(2018)年に初めて確認された。
カシナガは体長5ミリ前後の小昆虫で、雌はナラ菌やえさとなる酵母菌などをたくわえる「菌嚢(きんのう)」を持っている。7~8月、集合フェロモンに誘引されて多数の成虫が集中的に同じ木に穿入し、ナラ菌が孔道(こうどう)内で繁殖して、木の通水機能が失われる。それで、葉があっという間に枯れる。
夏井川渓谷の下流部のありさまを見ると、「ナラ枯れ」が今年(2020年)急に発生したようには思われない。カシナガの幼虫は孔道内で酵母類をえさとして成長・越冬し、翌年6~8月に羽化して一帯に散らばるというから、この1、2年の間に被害が急拡大した、ということではないのか。
夏井川渓谷は春のアカヤシオ(岩ツツジ)と秋の紅葉が観光の目玉にもなっている。その景観に黄信号がともらないとも限らない。
いわきで行われている防除例は二つ。一つは被害木を伐倒してシートで密閉し、薬剤で燻蒸(くんじょう)する伐倒駆除、もう一つは立木に穴をあけて薬剤を注入して燻蒸する立木燻蒸だ。
夏に異様なほど赤茶けた渓谷の森を見るのは初めてだった。これからさらに上流へと被害が拡大するのか、それとも食い止められるのか――「眺める」だけの人間だが、心配のタネが一つ増えた。
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