いわき市大久町の新谷(にいたに)窯工房から新作展の案内が届いた。去年(2019年)に続いてかやぶき屋根の自宅と庭を会場にしている。会期は日曜日から次の日曜日まで(9月13~20日)、時間は午前10時~午後5時だ。
初日の朝、いわき市議選の投票をすませて山麓線(県道いわき浪江線)を北上し、アンモナイトセンターへの案内板が立つ十字路で左に折れた。その方が、案内はがきに従うより早い。
会期はともかく、開催時間は頭に入っていなかった。10時からだが、9時過ぎには着いた。新谷夫妻があわてて出てきた(いやあ、悪かった)。ざっと40年前、平の草野美術ホールで夫妻がいわきで最初の展覧会を開いた。そのときからの付き合いだ。庭の作品=写真上1=を見たり、ナラ枯れの話をしたりしているうちに、共通の知り合いが現れ、新谷窯ファンの女性たちがやって来た。
かやぶき屋根の上にケヤキの大木が葉を茂らせている。夫君いわく「これがクヌギやコナラだったら……」。カシノナガキクイムシによるナラ枯れの心配があった。家を出る前、カミサンが「楢葉・富岡方面へ行ってみたい」といっていた。ついでに山麓線沿いのナラ枯れの様子を確かめるのもいいか――工房を離れたあと、木戸川まで車を走らせた。
広野町から楢葉町に入り、長い下りの坂道に出た。あとで地理院地図とグーグルアースで確かめたら、下小塙字椴木下(もみのきした)というところらしかった。カミサンが坂の途中で、「側溝から動物の肢(あし)が出ていた」と変なことをつぶやく。側溝から肢? イノシシではないか。
すぐUターンして確かめると、そうだった。イノシシがひっくり返ったまま側溝にはまり、四肢、いや正確には3本の肢を天に突き出して、息絶えていた=写真上2。左の後ろ肢は側溝の底にだらりと垂れている。体長はざっと1メートル。
左の後ろ肢の付け根あたりが大きなダメージを受けたらしい。それから事故の状況を推測してみる。夜中、広野方面から車が猛スピードでやって来た。そこへ前方、右側の林からイノシシが現れた。しかし、道路を渡り切る前に車の左前部ではねとばされ、側溝にさかさまに落っこちたのではないか。
写真を撮っているところへ、対向車がやって来て止まった。男性が降りてイノシシを見る。「きょう(死んだの)ではないな、きのう(車に)はねられたようだ。おれはイノシシを捕る(からわかる)」「雌かな」「いや、雄」。これもネットで調べてわかったのだが、楢葉町ではイノシシに限って猟友会から推薦のあった14人を有害鳥獣捕獲隊員として委嘱している。その1人だったか。
口元にハエがびっしりたかっているが、顔や腹部を見る限り外傷はない。目はあおぐろい。カラスに突つかれることもなく残っている。
これは「超現実」ではない。原発事故後の「日常の一コマ」なのだ。まちなかにいては見えない「文明の矛盾」なのだ――側溝にはまって肢を天に突き出しているイノシシに仰天しながら、困難と向き合い、闘っている双葉郡の9年半に思いがめぐった。
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