私がいわきのナラ枯れに気づいたのは月遅れ盆の入り、夏井川渓谷の隠居へ出かけたときだった。平地から駆け上がり、これから渓谷に入るというあたりで、森がところどころ“茶髪”になっていた。驚いた。急にそうなったようだ。
以来、1カ月余――。車で出かけるときには、視界に入る範囲で丘や山の様子をチェックするようにしている。
平を軸にしていうと、神谷~夏井川渓谷~三和・差塩(さいそ)~同・下市萱~好間のルート、義弟を乗せて出かけた内郷・労災病院前のバイパス近辺、鎌田から河口までの夏井川の堤防から見える丘陵群、海岸道路、四倉・八茎の山中、楢葉町・木戸川までの山麓線(県道いわき浪江線)沿い、楢葉~四倉の国道6号沿いなどだ。
特に被害が集中しているのは、高崎から江田までの渓谷下流部だった。右岸・塩田地区は“茶髪”が連続している。県道小野四倉線が走る左岸も被害があるのだろうが、がけや木々に遮られてよくわからない。V字谷だから、鳥はもちろん、虫たちも両岸の森を行き来するのは簡単だろう。
県道そばの大木も何本か葉が枯れていた。9月11日の早朝、渓谷の隠居へ秋ナスを摘みに行った帰り、谷側にあるクヌギと思われる大木の幹を観察した=写真。
ナラ枯れは、カシノナガキクイムシ(通称・カシナガ)が“犯人”だ。カシナガがコナラやクヌギ、ミズナラ、シイ、カシなどの樹木に孔(あな)をあけ、雌の「菌嚢(きんのう)」から植えつけられたナラ菌が繁殖し、幼虫がこれをえさにしてさらに掘削を続け、木くずを外に排出する。
集合フェロモンに誘引されて多数の成虫が集中的に同じ木に穿入(せんにゅう)し、産卵・ふ化した結果、木の通水機能が失われて、あっという間に枯死するのだという。
枯れた渓谷のクヌギは集中攻撃を受けたことを物語るように、上から下まで樹皮が木くずでまだらに白っぽくなっていた。
撮影データを拡大すると、白い木くずのところどころに小さな黒点がある。これが、カシナガが開けた孔? もっと近づいてつぶさに観察すれば、いろんなことがわかるのだろうが、素人には写真を撮るのが精いっぱいだ。
ネットには研究者の論考もアップされている。二井一禎京都大名誉教授の「ナラ類の萎凋病(ナラ枯れ)をめぐる生物関係」が、そのメカニズムに詳しい。
先に書いたことを具体的にいうと――。最初、雄が飛来し、宿主樹木に短い孔道を掘って、集合フェロモンを出す。すると、一斉に穿孔加害がおきる。
雄は孔の入り口で雌と交尾し、雌が辺材へと孔を掘り始めると、孔の入り口付近に陣取り、外敵の侵入を防ぐ。孔道壁に産みつけられた卵がかえり、終齢幼虫が掘削作業を始めると、雌は孔掘りをやめる。掘削くず(木くず)は雄の待つ孔道入り口まで運ばれ、捨てられる……。
なかなか巧妙な仕組みというか、高度な連係プレーではないか。この論考に出合って、カシナガの生態が少しみえてきた。
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