主に日鉄の八茎鉱山跡を巡り、それに合わせて資料をあさったせいか、すっかり「ヤグキ目」になっている。
前の日曜日(9月6日)にいわき市消防本部の4階会議室で、平地区自主防災組織リーダー研修会が開かれた。平消防署が主催した。台風19号がいわき市を襲ってから11カ月。台風シーズンを迎えて、消防から当時の救助活動状況が報告された。
想定最大規模降雨量を「70年に一度」から「1000年に一度」とした洪水ハザードマップ改訂版が、先日、夏井川水系の全戸に配布された。その改訂ポイントもおさらいした。
たまたま会議室を見回したら、奥の壁面に、朱色の屋根と黄色地に赤みを帯びた壁の大きな建物の絵が掛かっていた=写真上1。建物は山の斜面にいくつも連結して立っている。スペインかどこかの山中にある城塞(じょうさい)都市、といっても通用するような洋風の構造物だ。背景の山は近い。その上に広がる空の色も建物の壁の色に似る。一日の労働の終わり、夕焼けに染まる安息の時を表現したのだろうか。
休憩時間に入って、近くにいた若い消防職員に尋ねる。ヤグキ目には、建物は菖蒲平(しょうぶだいら)にあった日鉄の八茎鉱業所で、作者は消防本部経験者(市職員OB)のHさんではないか。「そうですか、自分たちはまったく知らないのです」。それはしかたがない。でも私のなかでは直観的に、市美展市長賞受賞者のHさんとHさんの別の建物の絵が思い浮かんだ。
後日、消防OBの知人から別件で電話がかかってきた。ちょうどいい機会だ。消防本部4階会議室に飾ってある横長の絵について聞くと、図星だった。「ずいぶんデフォルメされてるけどね」。八茎関係の資料をもらったり、図書館から本を借りたりして建物の写真を見ていた人間にも、それはわかる。
手元に若い知人から送られてきた八茎鉱業所の写真のコピーがある=写真上2(建物を中心にトリミングした)。それに比べると、建物がだいぶ簡略化されて描かれている。
現実の風景とだいぶ違う、といっても意味はない。現実は現実、絵画は絵画。画家としてのHさんの心象こそ尊重されるべきだろう。
それはそれとして、デフォルメされたこの絵からでさえ、八茎の鉱山が炭田同様、日本の近代化(都市化と工業化)を支え、担ってきた――そんな歴史の光彩、ダイナミズムを感じ取ることができる。
ちょっと前まで、四倉の町からほんの少し離れた山奥に一大鉱業拠点があった。山道を行くと、突如、赤い屋根と白い壁の建物群が出現する。そのこと自体に人々は度肝を抜かれたのではないか。
今は跡形もない。道路沿いにフェンスが張り巡らされ、立ち入りが禁止されている。大事なのは、「記録」という歴史の落ち葉が積み重なって、どのくらい豊かな腐葉土=「知層」ができているか、だ。
0 件のコメント:
コメントを投稿