2020年12月26日土曜日

冬、ナラ枯れの木は?

                     
 今年(2020年)、生活圏の夏井川流域で起きた最大の異変は「ナラ枯れ」だろう。毎週日曜日と、キュウリを栽培している夏場は週半ばの計2回、夏井川渓谷の隠居へ通った。月遅れ盆が始まった8月13日、渓谷の入り口で一部の山が点々と“紅葉”しているのに気づいた。万緑のはずの夏になぜ? それがナラ枯れを知った最初だった。

 8月下旬、いわき民報がいわき市内のナラ枯れの実態を報じた。去年(2019年)は民有林で110本ほどナラ枯れが起きた。ところが、今年はそれが数百本に急増した。景観、生態系への影響にとどまらず、「倒木、水源かん養機能の低下などから土砂災害などにつながる危険性が懸念されている」ということだった。

体長5ミリほどの小さな昆虫・カシノナガキクイムシ(カシナガ)が“犯人”だ。二井一禎京都大名誉教授によると、最初、雄が飛来し、宿主樹木に短い孔道(こうどう)を掘って、集合フェロモンを出す。すると、一斉に穿孔(せんこう)加害がおきる。雄は孔(あな)の入り口で雌と交尾し、雌が辺材へと孔を掘り始めると、孔の入り口付近に陣取り、外敵の侵入を防ぐ。

孔道壁に産みつけられた卵がかえり、終齢幼虫が掘削作業を始めると、雌は孔掘りをやめる。掘削くず(木くず)は雄の待つ孔道入り口まで運ばれ、捨てられる……。その結果、木は通水機能を失い、あっという間に枯死する。

カシナガの幼虫は孔道内で成長・越冬し、翌年6~8月、新成虫として一帯に散らばる。被害が拡大再生産されるわけだ。

夏のうちは“茶髪”のためにはっきりしていたナラ枯れだが、紅葉時期になるとどれが被害木かわからなくなった。渓谷の県道小野四倉線沿いにクヌギと思われる被害木がある。カエデも落葉した今、どうなっているかを確かめた。なんと、枯れ葉の一部がいっぱい残っている=写真。

岡山県のホームページには、周囲の木が落葉しても被害木の葉は落ちない、とある。落葉に必要な葉柄基部の「離層」が病気によって形成されないためだという。新潟県のホームページにも同じような記述がみられる。

普通の落葉樹は、秋、葉柄の根元と枝の境目に離層ができて、葉柄ごときれいに枝から葉が落ちる。ナラ枯れ被害に遭った木はこれができない。いつまでも葉柄が枝に付いている。そのうち枯れて乾いた葉が強風に引きちぎられてかたちが失われるのだろう。葉の一部だけが葉柄部分に残っていて、被害木であることを教えてくれる。

 被害木は小川の江田~高崎までの渓谷下流部に集中している。普通の落葉樹かナラ枯れかは、遠目には葉のかけらの有無で見分けるということになるようだ。

 県道沿いの被害木は直径が30センチ以上ある。カシナガの幼虫は今、孔道内で成長・越冬中だ。来年(2021年)の6~8月には、新成虫として一帯に散らばる。これだけの大径木だと、発生は数万匹に及ぶそうだ。今、現にものすごい数の幼虫が木の内部に巣くっているのだと思うと、なにか歯がゆくてならない。

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