2020年12月14日月曜日

アシナガバチの古巣

        
 アシナガバチの巣を手にする。ひっくり返して横から見れば、ちょっと変わったワイングラスだ。さわった感じは和紙そのもの。軽い、とにかく軽い。表面は正六角形のハニカム構造=写真上。外側は根元に近いほどチョコレート色が濃い=写真下。それが光を反射して、コーティングされたように輝いている。

アシナガバチは樹皮の繊維と自分の唾液(だえき)で巣をつくる。わが家の軒下にできた巣について、営巣開始時と落下時にブログで報告した。巣の形をワイングラスにたとえた。育房の集合体がボウル、柄(脚)がステム、付け根がプレート。ワイングラスと違って、アシナガバチのステムはとても短い。プレートも小さい。

 5月下旬。茶の間とガラス戸で隔てられた縁側の上、波形のポリカーボネートの庇(ひさし)に、アシナガバチが巣をかけたのに気づく。1匹だけだったから、女王バチだったのだろう。やがて、巣から孵(かえ)った働きバチがいつも巣の外側に張り付き、どんどん巣が膨らんでいった。

酷暑が続いた8月下旬、この巣が忽然(こつぜん)と消えた。誰かが取り払った? 最初はそう思ったが、わざわざアシナガバチに立ち向かう蛮勇の主はいない。

ならば、自然に落下した? 巣の下に物置代わりのスチール戸棚がある。その上に、元は人間の乳児を入れたわら製の民具(えじこ=猫を飼っていたときはそのベッドにした)を載せて置いた。イスにのってのぞくと、巣が横たわっていた。働きバチも群がっている。

原因は連日の酷暑だろう。異常な暑さで巣の付け根の“のり”が解けてゆるみ、つるつるのポリカーボネートの凸部からはがれ落ちたのだ。

それから3カ月半――。師走に“えじこ”をのぞくと、働きバチは姿を消していた。アシナガバチの営巣能力を知るには最高の材料だ、巣を回収してじっくり観察した。外形もまた変形ながら六角形だ。最大幅は南北・東西とも9センチ弱。

3回目の報告はその巣について――。巣づくりに気づいて撮った5月の写真がある。庇に張り付いたプレートの輪郭から、巣の前方(南)・後方(北)を推測する。おおよそ六角形のうち、一番短い辺が南らしいと判断した(冒頭の写真の上部)。

東西で見ると育房は13列、それぞれの穴の数は南から4個、次に6・7・8・9・10・11・12個と1個ずつ増え、さらにもう1列が同じ12個で、そのあとは11・10・9・8個と1個ずつ減っていく。計117。一番上の4個は、この構造からいうと5個でないといけない。たぶん、それをつくる前に落下して仕事が中断したのだ。

 庇の下にはもう1カ所、アシナガバチが巣をつくった。こちらは無事に巣立って“空き家”になった。女王バチは生まれ故郷に戻って営巣・産卵をするそうだ。ということは来年(2021年)もまた、同じ場所に巣をつくるかもしれない。いや、つくる。この庇の下でもう何年も巣を見てきたのだから。(女王バチは春まで、どこか寒さをしのげる場所でじっとしている)

今年は何回か、茶の間の梁(はり)にアシナガバチがかたまっていることがあった。こういうときにはしかたがない、スプレーで退治した。それ以外は放っておいても問題はなかった。これからも付き合い方は変わらない。

ポリカーボネートの庇の下、木の梁には一昨年と今年の古巣が二つ。さらに、手元には最高レベルの美麗な古巣。鳥の巣、ハチの巣のコレクションだけは増えていく。

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