夏井川渓谷の隠居の庭に立ち枯れの木がある。食菌のアラゲキクラゲとヒラタケ、食不適のアミヒラタケが発生する。11月最後の日曜日(11月29日)、半月ぶりに出かけると、2カ所からヒラタケが傘を広げていた。それから1週間後、採るにはちょっと時間がたっているが、まだいけるかもしれない。木のまたに足をかけて手を伸ばし、柄の根元からはぎとった。
中型なのに傘のへりはもう黒ずんで、しわが寄りはじめている。半分、干しヒラタケだ。ひっくり返してひだを見ると……。ん! 黄ばんだひだに白い粒々ができていた=写真。ついに現れたか。これもまた「地域温暖化」のサインだ。
震災後、キノコは撮影するだけにした。隠居の庭を除染してからは、庭に出るキノコだけを採る。その意味ではおよそ12年ぶりの「ヒラタケ白こぶ病」だった。
原発事故が起きる前は、毎年、晩秋から初冬にかけてヒラタケを採りに森へ入った。平成20(2008)年の師走は、大きくしっかりした個体がびっしり倒木に生えていた。ところが、3分の1に白い粒々ができていた。初めて見る異変だった。年末に開かれたいわきキノコ同好会の総会・懇親会では、この白い粒々の話題でもちきりだった。それが「ヒラタケ白こぶ病」だということを初めて知った。
ヒラタケ栽培農家では前々から被害が発生し、原因が分からずにいた。いわゆる「虫こぶ」の一種だ。
12年前の拙ブログには、「キノコバエに運ばれた線虫がヒラタケ・ウスヒラタケのひだに付着すると、ヒラタケ・ウスヒラタケは自衛のために虫こぶ(白こぶ)をつくり、線虫を食べてしまう」とある。当時、そんな見解の文献があったのだろう。今回、あらためて検索するとまったく違っていた。
森林総合研究所九州支所が管内の実験林内で調査した文献がある。それによると、白こぶ病にかかったヒラタケには、病原センチュウのヒラタケシラコブセンチュウと、媒介昆虫であるナミトモナガキノコバエの幼虫が生息している。ヒラタケ子実体(きのこ)が崩壊すると、病原センチュウはヒラタケから脱出してキノコバエに寄生し、羽化したキノコバエによって、また健全なヒラタケに移り、白こぶ病を発生させる。
白いこぶを解体するとセンチュウのメス成虫が、子実体にはキノコバエの幼虫が生息していたという。
別の文献では、1970年代の終わり、まず屋久島・福岡・鳥取で同時期に発生が確認された。その後の聞き取り調査では、1995年までに西日本一帯で、さらに2010年ごろには関東・東北でも確認されるようになった。いわきでも発生が確認されたと思ったら、すぐ北へ被害が拡大したわけだ。
白い粒々がびっしり付いているヒラタケは、気味が悪いから手が出ない。栽培ヒラタケは当然、売り物にならなくなる。目の細かな防虫ネットをかけると効果があるそうだ。「地球温暖化」の問題は真っ先に地域の片隅にあらわれる。「地域温暖化」のゆえんだ。
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