隠居のある夏井川渓谷の小集落で年度末の寄合があった。会場はK・Sさんの家の奥、納屋を改造した「談話室」だ。薪(まき)ストーブがある。カラオケ装置がある(コロナ禍以降、使用は自粛しているようだ)。
日曜日だけの半住民の私にとっては、渓谷の暮らしと自然を知るまたとない機会だ。いつものように渓谷の花やキノコの話が出た。集落内外の人の話になった。ショックだったのは、隠居の隣にある「夏井川渓谷錦展望台」の持ち主が暮れに亡くなったことだ。
震災前、持ち主が空き家を解体・更地にし、谷側の杉林を伐採してビューポイントにした。行楽客が車を止めて景色を堪能できるスポットができた。アカヤシオ(イワツツジ)の花が咲く4月と、紅葉の美しい10~11月には、持ち主が広場の隅にあるコンテナハウスに日本酒などを並べて売った。
去年(2020年)の秋は、しかし、コンテナハウスが開くことはなかった。当然、持ち主とは会わずじまいだった。
実際の生活の拠点は栃木県内にある。都市部の自宅と、出身地である渓谷の実家を行き来して暮らしていた。はやりの言葉でいえば「2地域居住」。展望台の管理は? 当面、親類でもある地元のK・Aさんがするという。
そうこうしているうちに、ストーブで室内が暖まったせいか、頭上をカメムシが飛び交い始めた。電球のひもにもびっしり止まっている=写真。テーブルに落ちて這いまわるものも現れた。
なんというカメムシだろう。灰色に近い背中の模様からするとクサギカメムシらしかった。このカメムシは成虫のまま人家に入り込んで冬を越すことがある。
たちまちカメムシ対策の話になった。ある家では網戸やガラス戸に忌避剤を噴霧した。すきまをテープでふさいだ。「談話室」には超音波式の駆除器をおいたという。
しかし、ストーブの暖気に誘われて何十匹も現れたことからみて、超音波は「効果なし」だった。ほかの対策もどこまで効き目があるかはわからない。
わが隠居も似たようなものだ。隠居は冬、「カメムシの宿」に変わる。雨戸のすき間、座布団と座布団の間、畳んだゴザのすき間と、至る所にカメムシがもぐりこんでいる。そこへ人間が現れ、石油ストーブで部屋を暖めると、いつのまにか1匹、また1匹とカメムシが現れる。独特の臭気に支配されることもある。
まだ冬が来る前、土いじりをするためにハンガーにつるしておいた防寒コートを着ると、カメムシがバラバラ落ちた。その数、10や20ではきかなかった。
カメムシに頭を痛めていた年明け、学校の後輩からクスノキの薪をもらって、隠居の茶の間などに置いた。防虫剤の樟脳(しょうのう)はクスノキが主成分だ。クスノキ本体を置けば、強烈な香りに負けてカメムシが逃げていくのではないか。そんな淡い期待を抱いたのだった。
効き目があればむろんいい。が、なくてもかまわない。春になればいつかは、カメムシは姿を消す。
カメムシは、方言では「ヘクサムシ」。一発くらうと、パクチー的なにおいがしばらく消えない。パクチーが食材になるように、カメムシも……なら、悩む必要はないのだが。そうはいかないからみんなあれこれ対策を試みる。そして、ほとんど失敗する。
0 件のコメント:
コメントを投稿