2021年3月3日水曜日

渓谷にも「光の春」が

        
 日曜日(2月28日)、2週間ぶりに夏井川渓谷の隠居へ出かけた。「寒さの冬」と「光の春」の綱引きが続いているが、やはりだんだんと「光の春」が優っているようだ。「梅前線」が渓谷の錦展望台に到着していた。

 帰りは、久しぶりに二ツ箭山腹を縫う広域農道を利用して、道の駅よつくら港へ直行した。ナメコその他を買った。

快晴、微風。道沿いの畑に人が出て堆肥をまいたり、うねを耕したりしていた。ジャガイモを栽培していたころ、春が来ると真っ先に種イモを植えつけた。その準備が始まったのだろう。

散歩をする人もあちこちで見かけた=写真上1。この時期になると、東西南北すべての遠景がかすんでいることがある。そうすると、霞の向こうに溶け込みたくなるほど、あやしい気分になる。「煙霞(えんか)の癖(へき)」という。「自然の風景を愛し、旅を楽しむ習性」と辞書はいう。

西行が、芭蕉がそうだった。牧水も、山頭火もそうだった。歩行神(あるきがみ)にそそのかされるような、なにかふわふわとした、人をまどわせるような気分を、「煙霞」はもたらす。 

 まずは隠居の庭の畑に生ごみを埋めたあと、上の庭と下の庭を仕切る石垣に沿って春を探した。ナズナの白、オオイヌノフグリの青、ヒメオドリコソウのピンクの花が混在している。いつの間にか地べたにも緑が広がっていた。

 上の庭に咲くオオイヌノフグリを、下の庭からほぼ水平に撮った=写真上2。ファインダーをのぞいた瞬間、なぜか翅(はね)を開いたルリシジミを連想した。今にも飛び立とうとしている姿に似ている。錯覚にはちがいないのだが、それもまたおもしろい。
 
   夏井川の岸辺に立つと、ヤシャブシが雄花序を付けていた。定点観測をしている道路沿いのマンサクは見のがしたが、これもそろそろ花が満開になることだろう。

 石垣もじっくり観察する。石のすきまには蛇がすみついている。わが隠居ではやっかい者のマムシがいる。今は活動期ではないから、近づいても心配はない。石の表面にドロバチのものと思われる巣があった。

そばの木の切り株にはゴマダラカミキリムシが菌に侵されて死んでいた。はずして石の上に載せたのをカメラに収める=写真上3。1年半ぶりに見るムシカビだ。木の切り株に止まった瞬間に息絶え、やがて内部から菌糸が現れたのだ。

 外観は生きていたときと変わらない。冬虫夏草と同じように見えるが、ムシカビにはキノコにある「柄」がない。「昆虫病原糸状菌という意味では冬虫夏草の仲間」でも、実際には「蚕の硬化病の原因となる白きょう病菌の仲間」で、冬虫夏草でもキノコでもない、ということになる。自然界の生の営みと死、その循環のなかで人間は“借り暮らし”をしているのだ、という思いを新たにする。

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