「スプリング・エフェメラル」(春の妖精)という言葉を知ったのは、いわき市に住むコケ研究の第一人者、湯澤陽一さん(元高校教諭)を講師に、有志で阿武隈の植物を見て回る「山学校」を年に何回か開いていたときだ。
早春、ほかの植物にさきがけて花を咲かせる雑木林のカタクリ、湿地のニリンソウ、キクザキイチゲなどをいう。
スプリング・エフェメラルは、光が林床に踊っているうちに光合成をする。栄養をたくわえて開花し、頭上の落葉樹が葉を開いたころには、早くも活動を終えて眠りに就く。
頭ではなく、足を使って見たものは骨の髄までしみこんでいる。とりわけ、冬枯れの湿地や林床から萌(も)え出るスプリング・エフェメラルには、なんともいえない感動を覚えたものだ。
夏井川渓谷はV字谷で岩盤が露出している。土壌層は薄い。イワウチワやアカヤシオ(岩ツツジ)など、「イワ」のつく草木はあるが、土壌深く根を張るカタクリは見たことがない。あるのだろうが、どこにあるのかはわからない。それに代わるスプリング・エフェメラルがキクザキイチゲやハルトラノオ(近年、新種と認められたアブクマトラノオかもしれない)だ。
毎年、キクザキイチゲの開花を見てきた小流れの湿地がある。令和元(2019)年10月の台風19号で冠水し、土砂と流木が残った。去年(2020年)はそのためか、花の姿はなかった。今年も4月4日の日曜日に確かめたが、やはり姿はなかった=写真。
ブログに証拠の写真をアップしてないのではっきりしたことは言えないが、この箱庭のような湿地ではハルトラノオ(アブクマトラノオ?)も花を咲かせていた。それも土砂に埋まってしまったようだ。
台風襲来前の平成30(2018)年4月1日には、今年と同じように対岸のアカヤシオがほぼ満開になり、いつもの湿地にキクザキイチゲが咲いていた。森のなかではイワウチワも開花したことを、知人の情報で知った。
それが今は――。石垣に沿って東進し、小道に設けられたヒューム管で直角に南進する小流れから、クレソンが消えた。前は南の小流れに光がさすよう、ときどきドクダミとスギナを除去していた。震災後、それをやめたら、隣接するヨシ原からヨシが侵入してきた。昨秋、小流れを覆っていた枯れヨシを除去したが、先日見ると、またヨシの新芽が出ていた。(湿地は小流れがつくった。小流れの先にある扇状地だ。ここもいずれヨシに占拠されるのか)
さらに大水のあと、石垣の下の小流れをイノシシがほじくり返したために、そばの空き地が常時、水につかっている。このまま湿地化したら、生える草も変化してくるのではないか。
自然環境はいつも同じではない。自然(湿地)が自然(大水・イノシシ・ヨシなど)の影響を受け、関係しあって絶えず変化している。これに人間の文明がもたらした温暖化が加わる。土砂に覆われた湿地からキクザキイチゲの、つまりは地球の悲鳴が聞こえてくるようだ。
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