夏井川渓谷の小集落・牛小川で「春日様」(春日神社)のお祭りが行われた日――。直会(なおらい)の会場となっているKさんの家へ行くと、裏山へ案内された。
裏山は杉林だが、ここでKさんは「シャクナゲ増殖10年計画」を展開している。去年(2020年)夏、そのプランを事細かに聞いた。
そのときの拙ブログ(7月29日付「シャクナゲ増殖10年計画」)を、参考に要約する。
――Kさんの案内でKさんの家の裏山を見た。杉林だが、間伐して林内が明るくなっていた。そこにシャクナゲの苗木を植え始めた。「シャクナゲ増殖10年計画」だという。薄暗い杉の林内をシャクナゲの花で明るくする。そんな決意をあっさり口にする。
昔、隠居の隣にある古い家を所有者のTさんが解体し、谷側の杉林を伐採して展望台をつくった。すると次は、山側、県道小野四倉線とJR磐越東線の間に植えられた杉の苗木を、所有者のKさんが伐採した。マイカー族も、列車の乗客も杉林に邪魔されることなく景観を楽しめるようになった。(Tさんは2020年師走に亡くなった)
自然景観と環境に対する土地所有者の考え・行動がなにか新しいステージに入ったように思ったものだ。その延長で、今度はシャクナゲ増殖作戦が始まった。
渓谷で暮らすということは、日々、自然にはたらきかけ、自然の恵みを受ける、ということだ。その一方で、自然からしっぺ返しをくらうこともある。自然をどうなだめ,畏(おそ)れ、敬いながら、折り合いをつけるか、ということでもある。その折り合いのつけ方が、今回はシャクナゲ増殖計画となってあらわれた。
――それから9カ月。「シャクナゲの花が咲いた」。Kさんのあとについて裏山へ行くと、2カ所で花が咲いていた。大きい苗木の花をじっくり眺める=写真。林床も前より明るい。杉林と混交するように孟宗竹が生えていた。それを伐採した。林床がてっぺんまで見通せる。増殖計画は着実に進んでいるようだ。
去年は、杉林の中に手製のイノシシ威(おど)しがあった。今年は気がつかなかった。
直会の席で「イノシシは?」と聞けば、「このごろは出ないなぁ」という。裏山がシャクナゲ増殖計画のおかげで見通しがよくなった。「隠れるところ(繁み)がなくなって、イノシシは来なくなったんだべ」。なるほど。
去年の拙ブログによれば、イノシシ威しは次のようなものだった。畑に使う逆U字型支柱2本を交差して立て、真ん中から殺虫剤の空き缶などを取り付けた一斗缶やヤカンをつるしていた。それらはロープで家とつながっている。イノシシが「出たな!」となったら、家からロープを引いてガランガラン音を鳴らす、というわけだ。
威しを使わなくても、イノシシは今のところ鳴りをひそめている。シャクナゲ増殖計画が思わぬ波及効果をもたらした。自然とのいい折り合い方ではないか。
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